コラム

「内部リーク」色があまりに濃厚なNTT・総務省接待事件の深い闇

2021年03月09日(火)11時06分

これまた「酒池肉林」感の漂う供応接待

最後が、「なぜ接待が明るみに出たのか」という問題だ。

端緒となった週刊文春3月11日号は、NTT代表取締役社長と執行役員が2020年6月4日、国際戦略局長と山田真貴子総務審議官(当時)を相手に行った供応接待の様子を詳細に報じている。

ドン・ペリニヨン(1本3万8000円)による乾杯に始まり、福岡・志賀島産のウニ、琵琶湖の天然アユ、短角牛フィレ肉のポワレ、シャトー・マルゴー(1本12万円)等が供されるという、「酒池肉林感」漂う供応接待−−。その様子が事細かに、まるでその場を見てきたかのように描写されているのだ。

気になるのは接待の場所が、麻布十番にあるNTT関連会社が運営する「会員制」レストランであり、しかも「個室」だとされている点だ。

東北新社が情報流通行政局長(当時)に接待を行った六本木の小料理屋は、記者が客として隣席に陣取ることができた店だった。そのため、宴席での会話が録音された。放送・通信分野における規制改革の旗手の一人であった小林史明元総務政務官について同局長が「一敗地にまみれないと、全然勘違いのままいっちゃいますよね」と言い放つ音声データが公開され衝撃を与えたことは記憶に新しい。

義憤に駆られた内部告発か、「政治的な仕掛け」か

今回は、それと異なり、「当事者」以外の者が立ち入れる場所ではおよそない。とすると、料理の品目や会計の詳細を含んだ今回の情報は、当事者または内部関係者による「流出」ではないかという推測が働く。

それが義憤に駆られた「内部告発」なのか、それとも何らかの思惑があっての「政治的な仕掛け」なのかは、現時点では不明である。いずれにせよ、今回の総務省報告は中間報告に過ぎない。3月15日にはNTT社長が国会に参考人招致されることも決まった。今後、NTTあるいは他の企業(利害関係者)による接待の事実が更に明らかになる可能性も残されている。

官民癒着の真相解明と綱紀粛正の度合いによって、今回の接待事件が一過性の「飛び火」に終わるか、それとも、コロナ禍で窮屈な生活を強いられている国民の怒りに火をつけ、政権与党を巻き込んで燎原の火の如く燃え広がる「業火」となるか、命運が分かれることになろう。

202404300507issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年4月30日/5月7日号(4月23日発売)は「世界が愛した日本アニメ30」特集。ジブリのほか、『鬼滅の刃』『AKIRA』『ドラゴンボール』『千年女優』『君の名は。』……[PLUS]北米を席巻する日本マンガ

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

北島 純

社会構想⼤学院⼤学教授
東京⼤学法学部卒業、九州大学大学院法務学府修了。駐日デンマーク大使館上席戦略担当官を経て、現在、経済社会システム総合研究所(IESS)客員研究主幹及び経営倫理実践研究センター(BERC)主任研究員を兼務。専門は政治過程論、コンプライアンス、情報戦略。最近の論考に「伝統文化の「盗用」と文化デューデリジェンス ―広告をはじめとする表現活動において「文化の盗用」非難が惹起される蓋然性を事前精査する基準定立の試み―」(社会構想研究第4巻1号、2022)等がある。
Twitter: @kitajimajun

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米PCE価格指数、3月前月比+0.3%・前年比+2

ワールド

米中外相会談、ロシア支援に米懸念表明 マイナス要因

ワールド

ベトナム国会議長、「違反行為」で辞任 国家主席解任

ビジネス

ANAHD、今期18%の営業減益予想 売上高は過去
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 8

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 9

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story