最新記事

日本政治

「桜を見る会」問題、ホテル前夜祭「値引き」疑惑の深層

A Cherry Blossom Storm

2019年12月13日(金)16時10分
北島 純(社会情報大学院大学特任教授)

<歴代最長を誇る安倍政権にほころびが──ホテル側の「値引き」と首相晩餐会受注の微妙過ぎる関係>

11月20日、安倍晋三首相の在任期間が通算2887日となり、桂太郎を抜いて歴代最長となった。超長期政権を維持している要因として挙げられるのが、人事の妙と卓越した危機管理だろう。

麻生太郎副総理兼財務相や二階俊博自民党幹事長をはじめとする党内実力者との協調関係を基軸として、石破派を除く総主流派体制の構築に成功。閣僚人事でも各方面へ入念な配慮が効いている。

また、内閣官房長官と内閣人事局による霞が関人事の差配によって政府を掌握し、安倍政権は「アメとムチ」を存分に振るっている感がある。森友・加計問題を含むスキャンダルもその都度、菅義偉官房長官が主導する危機管理によって切り抜けてきた。

類いまれなほど強力な政権であったからこそ、集団的自衛権行使を容認する安保法制導入といった戦後史を画する数々の政策を実現できたことは確かだ。平成から令和へ、皇位継承もつつがなく終わることができた。

しかし、そうした安倍政権がいま揺らいでいる。今年4月13日に東京・新宿御苑で開かれた首相主催の「桜を見る会」をめぐる疑惑だ。

共産党の指摘に端を発する今回のスキャンダルは当初、安倍首相の後援会が多数招待されていることが身びいきで不公平だ、とする道義的な非難にすぎないようにも思えた。しかし、菅官房長官が予算や招待者数の削減も含め全般的な見直しを検討するとして来年の開催を中止すると発表しても、事態は収束しない。立憲民主党の安住淳国対委員長は「エンドレスで追及する」と発言し、野党が「返り血」を辞さない覚悟を示した頃から、疑惑が深刻化してきた。

なかでも「桜を見る会」前日の12日、安倍後援会が行った「前夜祭」で、東京のホテルニューオータニが大幅値引きをしていたのではないかという疑惑が注目されている。

値引きと受注の対価性

約800人の参加者の費用が1人当たり1万1000円以上かかるところを5000円に割り引いた、という疑惑だ。これが真実であれば、値引き分を安倍事務所が補塡していた場合は地元有権者に対する飲食接待で公職選挙法違反、ホテル側が後援会に対して値引きを融通していた場合は、ホテルによる実質的な企業献金で政治資金規正法違反に当たるというのだ。これ以外にも、会当日に反社会勢力関係者が出席していたことも批判されている。

このうち、首相主催の「桜を見る会」に誰を呼ぶか、どれくらいの予算をかけるかは、原則として首相が有する裁量の範囲内の問題だ。今回、明白な裁量逸脱があったとは言い難いようにも思える。また、見る会当日の参加者チェックがずさんだったことも、セキュリティーの観点から批判されるべきだが、公然の秘密でもあった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米FRB、「ストレステスト」改正案承認 透明性向上

ワールド

東ティモール、ASEAN加盟 11カ国目

ワールド

米、ロシアへの追加制裁準備 欧州にも圧力強化望む=

ワールド

「私のこともよく認識」と高市首相、トランプ大統領と
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 3
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任務戦闘艦を進水 
  • 4
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 5
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 6
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 7
    メーガン妃の「お尻」に手を伸ばすヘンリー王子、注…
  • 8
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月2…
  • 9
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 10
    為替は先が読みにくい?「ドル以外」に目を向けると…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 6
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 7
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 10
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中