コラム

ついに「財政規律の重視」を捨てたドイツ...政治・経済の「危機的状況」を新政権は立て直せるか?

2025年05月04日(日)19時20分
メルツ首相はドイツの財政規律路線を大転換

フリードリヒ・メルツ新首相は約1兆ユーロの借り入れによる歳出を可能にする憲法改正を行った UWE KOCH-HMB MEDIA-DDP-REUTERS

<2年連続の景気後退に陥り、政治の面では連立崩壊、極右躍進と苦しむ「欧州の病人」ドイツ。新政権は財政均衡の「伝統」をアップデートできるか>

欧州債務危機に欧州難民危機、極右の台頭......この十数年、ドイツは波乱の連続だった。

ウクライナ戦争や米中対立、中国製電気自動車(EV)の進出で「欧州の病人」扱いされるドイツだが、それまでは「欧州の優等生」だった。WTOによると、ドイツの貿易黒字は中国に次いで世界2位。自動車・自動車部品、機械、化学が強みになってきた。


ハイパーインフレーションが独裁者ヒトラーを生んだ暗黒の歴史を持つドイツにとって、借金は罪悪以外の何物でもない。このメンタリティーが借金は将来への投資であり、うまく管理すればいいと考える米英との大きな違いである。

欧州債務危機を必要以上に迷走させたのはドイツの倹約精神と柔軟性のなさだった。行きすぎた財政均衡主義がドイツと欧州から成長の機会を奪ってしまった。一方、90万人近い難民が流入した欧州難民危機にドイツが対処できたのは健全な財政と貿易黒字のおかげだ。

ナチスの記憶を払拭したアンゲラ・メルケル首相(当時)の難民「門戸開放」政策が極右「ドイツのための選択肢(AfD)」を伸長させたのは、歴史の皮肉だろう。

対中・対ロ貿易が地政学上の制約を受けて低迷し、ドイツは2年連続の景気後退に陥った。安価で安定したロシア産エネルギーに依存してきたドイツ経済にとって、ウクライナ・欧州対ロシアの対立構造は足かせでしかない。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシア黒海主要港、石油積み込み再開 ウクライナの攻

ビジネス

メルク、インフルエンザ薬開発のシダラを92億ドルで

ワールド

S&P、南ア格付けを約20年ぶり引き上げ 見通し改

ワールド

米国境警備隊、シャーロットの移民摘発 初日に81人
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 3
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 4
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 5
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 6
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 7
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 8
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 9
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 10
    反ワクチンのカリスマを追放し、豊田真由子を抜擢...…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story