コラム

マクロン仏大統領の勢力は支持率3位に...右派と左派のポピュリストに「挟撃」され、沈む中道連合

2024年06月28日(金)17時30分
マクロン大統領はフランス議会選で苦戦

ArChe1993/Shutterstock

<7月の仏国民議会選に向けた世論調査で、マクロン大統領の中道連合はルペン氏の国民連合に大差を付けられ3位に低迷>

[ロンドン発]6月30日と7月7日の2回、投票が行われる仏国民議会選(下院、定数577)の世論調査で、国民連合(旧国民戦線)と共和党の右派連合37%、不服従のフランスや社会党などの左派連合28%がエマニュエル・マクロン大統領の中道連合20%を大きく引き離している。

英誌エコノミストは社説(6月27日)で「マクロン氏はフランスのために良い仕事を成し遂げたが、すべてをリスクにさらしてしまった。国民議会選後、右派と左派のポピュリストが中道の大統領の足かせになる恐れがある」と分析する。

マクロン氏は7月26日、セーヌ川での開幕式で始まるパリ五輪でフランス最高の姿を世界に誇示するはずだった。しかし先の欧州議会選で、党の脱悪魔化を進めて支持を集めるマリーヌ・ルペン氏の国民連合に倍以上の差をつけられ、国民議会の解散に追い込まれた。

構造改革を進めた政権は有権者に罰せられる

マクロン氏は大統領に就任してからの7年間、フランスをビジネスフレンドリーに転換させ、200万人の雇用と600万社以上を生み出したとエコノミスト誌は評価する。富裕税を抑え、企業減税を実施した。受給開始年齢を段階的に引き上げる不人気な年金改革にも着手した。

元ルクセンブルク首相で前欧州委員会委員長ジャン=クロード・ユンケル氏がいみじくも 「私たちは皆、何をすべきか知っているが、それを実行した後、どうすれば再選されるかを知らない」と喝破したように構造改革を進めた政権は有権者に罰せられるというジレンマがある。

マクロン氏もまた、そのジレンマの犠牲者になろうとしている。3年も前倒しして国民議会を解散するというギャンブルは右派と左派をそれぞれ団結させた。その結果、マクロン氏の中道候補者の多くは1回目投票で脱落する可能性が高くなった。

次期フランス首相を目指す若きカリスマ

「自国に改革の果実をもたらした大統領がなぜこのような苦境に陥るのか。パリをはじめ大都市が繁栄する一方で、フランスの多くの地域はそうではない。格差に対する認識が、民主主義世界の多くで政治を右傾化させている」とエコノミスト誌は指摘する。

道路整備など関連経費も含めて費用が立候補時の見積もりの5倍に膨れ上がった東京五輪が有権者の目の敵にされたように、パリ五輪も経済格差、生活費の高騰、政治エリートへの反発の象徴になる恐れがある。

フランスの次期首相を目指すのは国民連合党首のジョルダン・バルデラ氏(28)だ。母はイタリア系移民。16歳で国民戦線に参加し、エネルギッシュな演説が評判となり、めきめきと頭角を現したマリーヌ・ルペン氏の秘蔵っ子である。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

攻撃受けたイラン核施設で解体作業、活動隠滅の可能性

ワールド

独仏ポーランド首脳がモルドバ訪問、議会選控え親EU

ワールド

米FDA、65歳未満のコロナワクチン接種を高リスク

ビジネス

米フォード、トラック35万5000台リコール 計器
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 2
    「どんな知能してるんだ」「自分の家かよ...」屋内に侵入してきたクマが見せた「目を疑う行動」にネット戦慄
  • 3
    脳をハイジャックする「10の超加工食品」とは?...罪悪感も中毒も断ち切る「2つの習慣」
  • 4
    【クイズ】1位はアメリカ...稼働中の「原子力発電所…
  • 5
    「ガソリンスタンドに行列」...ウクライナの反撃が「…
  • 6
    「1日1万歩」より効く!? 海外SNSで話題、日本発・新…
  • 7
    イタリアの「オーバーツーリズム」が止まらない...草…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    「美しく、恐ろしい...」アメリカを襲った大型ハリケ…
  • 10
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 3
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 4
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 5
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 6
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 7
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 8
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 9
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 10
    脳をハイジャックする「10の超加工食品」とは?...罪…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 9
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 10
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story