最新記事
極右

極右の相次ぐ選挙勝利、マスコミが「ポピュリズム」報道の詭弁で助長する愚行

Normalizing Extremes

2023年12月6日(水)17時19分
オーレリアン・モンドン(英バース大学政治学上級講師)
極右を「普通」にした犯人は誰だ

オランダ次期首相への就任を目指すウィルダース PETER BOERーBLOOMBERG/GETTY IMAGES

<アルゼンチンやオランダで極右が相次ぎ勝利、脅威を喧伝しながらポピュリストの形容により極右を「主流」にしてしまう報道関係者・研究者の罪をあばく>

新たな「ポピュリズムの衝撃」だった。

11月19日に行われたアルゼンチン大統領選決選投票を制した右派のハビエル・ミレイと、11月22日のオランダ総選挙で第1党になった極右政党・自由党を率いるヘールト・ウィルダース。2人の勝利は、弱体化する自由民主主義に襲いかかる「ポピュリズムの波」の象徴だ。

一方、リアリティー番組に出演するイギリス独立党(UKIP)元党首ナイジェル・ファラージュのように、親しみやすい人物として世間に浸透する極右指導者もいる。


この構図には、極右への反応の矛盾がむき出しになっているが、問題はもっと根深い。

娯楽番組などで人間性を強調すれば、極右は「普通」になる。

極右とその脅威を懸念する者にとって、これは自明の理のはずだ。

だが、極右の脅威を大げさに伝えるのも同じくらい有害だ。

反動政治の復活は想定内であり、かなり前から始まっている。それなのに極右が勝利するたび、予想外の新たな現象という分析が出てくる。

「ポピュリズム」も同様だ。

専門的な研究はどれも、彼らの本質はポピュリストではなく、極右にほかならないと指摘する。だがメディアも学者も、ポピュリストと不用意に形容しがちだ。

極右や人種差別主義者の代わりにポピュリストと呼ぶのは、極右の正当化に貢献する行為だ。

この「人民」を語源とする単語は民主的な支持を想起させ、彼らのエリート主義的本質を消し去ってしまう。

主流メディアの責任放棄

極右の主流化や正常化というプロセスは、主流そのものと強く結び付いている。

主流に取り込まれることなく、何かが主流化することはあり得ない。

反対姿勢をアピールして自身の責任を否定しながら主張を取り上げ、過剰報道し、正当化してしまう。それが極右主流化のプロセスだ。

主流派メディアは世論形成に重要な役割を持つが、その多くは役割に伴う責任を放棄するか、無視している。編集方針による選択の結果を、無作為の事象と言わんばかりだ。

いい例が2018年から英紙ガーディアンが連載した「新ポピュリズム」特集だ。その出発点は「なぜ突然、ポピュリズムが大ブームになったのか」という問いだった。

ポピュリズムを取り上げた同紙の記事は、1998年には約300件だったが、16年は2000件に増えたという。だがそれは、単純に同誌がポピュリズムという単語を多用するようになったからではないのか?

極右台頭は「サイレント・マジョリティー」や「白人労働層」のせいにされている。

極右は規範や主流の枠外のアウトサイダーと捉えられがちだが、そうした見方は社会の中核に埋め込まれた構造的格差や抑圧を見落としている。

研究者もそうだ。

この5年間に発表された論文2500件以上のタイトルと要旨を分析したところ、選挙や移民を論点にして極右をごまかし、例外扱いする傾向が強かった。

主流化という問題では、主流自体の大きな役割を考慮すべきだ。

世論形成への特権的アクセスを持つメディアや学術研究者は、主流という良識と正義の砦(とりで)の中にいるのではない。彼らが立っているのは、権力が極めて不均衡な形で分配された闘技場だ。

極右にも「一理ある」が、極右には反対──そんな詭弁は許されない。

The Conversation

Aurelien Mondon, Senior Lecturer in Politics, University of Bath

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

ニューズウィーク日本版 世界も「老害」戦争
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月25日号(11月18日発売)は「世界も『老害』戦争」特集。アメリカやヨーロッパでも若者が高齢者の「犠牲」に

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

和平案巡り協議継続とゼレンスキー氏、「ウクライナを

ワールド

中国、与那国のミサイル配備計画を非難 「大惨事に導

ワールド

韓国外為当局と年金基金、通貨安定と運用向上の両立目

ワールド

香港長官、中国の対日政策を支持 状況注視し適切に対
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナゾ仕様」...「ここじゃできない!」
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 4
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 5
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】いま注目のフィンテック企業、ソーファイ・…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 10
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中