コラム

ドイツ「極右政党」を手なずけて利用...中国「悪魔のリアルポリティクス」がもたらしつつある「成果」

2023年08月15日(火)18時55分
「ドイツのための選択肢」のアリス・ワイデル共同党首

「ドイツのための選択肢」のアリス・ワイデル共同党首 Annegret Hilse-Reuters

<躍進する極右「ドイツのための選択肢(AfD)」を味方につける中国。来年の欧州議会選をにらみ、分断工作が進んでいる>

[ロンドン発]世論調査の政党支持率で与党・社会民主党を上回る独極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」について、独保守系紙ウェルトのアラン・ポーズナー氏は「反米を唱える『ドイツのための選択肢』を中国は応援するだろう」と題し、ドイツが西側諸国との関係を放棄した場合、中国の言いなりにならざるを得なくなると釘を刺している。

ポーズナー氏は第二次大戦直前、ドイツで語られたジョークを取り上げている。地球儀を販売する店に若い女性が入ってくる。「ナチスのアドルフ・ヒトラー総統は私たちが世界政治に関心を持つことをお望みです。そこにあるような地球儀が欲しいのです。私たちのドイチェス・ライヒ(ドイツ帝国)はどこにあるのですか」と尋ねた。

「ここです」と店員が答える。女性が 「とても小さいですね。『不実のアルビオン(英国)』の帝国はどこですか」と質問すると、店員が 「ここ、そしてここ、ここ...」と次々と指を動かす。「ユダヤ化された米国は」 「ユダヤ人のボリシェヴィキ帝国は」 と質問を重ねた女性は 「私たちの敬愛する総統もこれと同じ地球儀を持っているのですか」と嘆息した。

ポーズナー氏は「このジョークは真実を語っている。ヒトラーの世界征服計画は傲慢だった。それでも当時のドイツは非常に強力で、英米の指導者ウィンストン・チャーチルとフランクリン・D・ルーズベルトが自国の平和主義と敗北主義のムードに流されていたら、ドイツは世界の強国になれたのかもしれない」と指摘している。

仏大統領「欧州は台湾問題で米国に隷属しない」


「ドイツのための選択肢」のアリス・ワイデル共同党首と2人の連邦議会議員は中国から公式招待を受け、6月末、北京と上海で約1週間過ごした。ワイデル氏は米ゴールドマン・サックス出身で、ドイツ学術交流の奨学金を得て中国に6年間滞在し、中国の年金制度に関する博士号を取得した中国通として知られる。

4月の訪中でタカ派のアナレーナ・ベアボック独外相が台湾問題や中国の人権状況を批判したことについて、ワイデル氏はツイッター(当時)に「ロベルト・ハーベック独経済・気候保護相が国内経済を破壊している間にベアボックは海外に新たな釘を棺に打ち込んでいる。自己満足のために最も重要な貿易相手国の中国を欺いているのだ」と書き込んだ。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ワーナー、買収案1株30 ドルに上げ要求 パラマウ

ワールド

再送-柏崎刈羽原発の再稼働是非、新潟県知事「近いう

ビジネス

塗料のアクゾ・ノーベル、同業アクサルタと合併へ

ビジネス

午前の日経平均は反発、エヌビディア決算前で強弱感交
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「日本人ファースト」「オーガニック右翼」というイ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story