コラム

戦狼外交から「微笑外交」に豹変した中国...欧州に「再接近」する習近平主席の狙いとは?

2024年05月08日(水)16時49分
フランスのマクロン大統領と中国の習近平国家主席

訪仏してマクロン大統領と会談する習近平主席(5月7日) Aurelien Morissard/Pool via REUTERS

<中国の習近平国家主席が欧州3カ国を歴訪。日米欧にとっては、中露の間にくさびを打ち込むチャンスでもある>

[ロンドン発]中国の習近平国家主席は5~10日の日程でフランス、セルビア、ハンガリーの欧州3カ国を歴訪する。6日、パリでエマニュエル・マクロン仏大統領、欧州連合(EU)のウルズラ・フォンデアライエン欧州委員長と会談した。習主席の欧州訪問は5年ぶり。

フランスはドイツと並ぶEUの主要国。EUの対中政策にも大きな影響力を持っている。セルビアとハンガリーは親露・親中の国だ。今年は米軍がコソボ紛争に絡み、当時ユーゴスラビアの首都だったベオグラード(現セルビアの首都)の中国大使館を誤爆してから25年になる。

中国は対中包囲網の構築を主導する日米と欧州を引き離すため習主席以前から欧州外交に力を入れてきた。英国がデービッド・キャメロン首相(保守党)時代に「英中黄金時代」を提唱するなど、地政学上の警戒感が薄い欧州は対中外交で安全保障より経済関係を優先してきた。

習主席は今年3月、オランダのマルク・ルッテ首相、4月にドイツのオラフ・ショルツ首相と北京で会談。中国とフランスは今年、国交樹立60周年を迎え、マクロン大統領は盛大な歓迎式典で習主席夫妻を迎えた。7日にはフランス南西部ピレネー山脈の景勝地で昼食会を開く。

マクロン大統領「オリンピック休戦」提案

マクロン大統領は習主席に「オリンピック休戦」を提案した。米紙ニューヨーク・タイムズ(6日)は、習主席はロシアとの緊密な関係への批判に対し「第三国に責任を負わせ、その国のイメージを汚し、新たな冷戦を煽るために利用されることに反対する」と反発したと報じている。

「戦争の当事者でも参加者でもない」という習主席の発言は「中国がロシア産石油・天然ガスの輸入だけでなく戦闘機の部品やマイクロチップ、デュアルユース機器とともにロシア軍に衛星画像を提供することでロシアを支援し続けているとみなす米国が念頭にある」と同紙は分析する。

マクロン、フォンデアライエン両氏は習主席に戦争終結のためモスクワへの影響力を行使するよう求めた。習主席は今月、ウラジーミル・プーチン露大統領を北京に迎える。米国のジャネット・イエレン財務長官、アントニー・ブリンケン国務長官訪中に続き、動きが活発になってきた。

中国共産党系・人民日報傘下の環球時報英語版(7日)によると、習主席はマクロン大統領と会談した際「中仏は互恵を堅持し『デカップリング』や産業・サプライチェーンの破壊行為に共同で反対、障壁の建設に共にノーと言うべきだ」と新たな冷戦という概念に強く反発した。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日産、追浜と湘南の2工場閉鎖で調整 海外はメキシコ

ワールド

トランプ減税法案、下院予算委で否決 共和党一部議員

ワールド

米国債、ムーディーズが最上位から格下げ ホワイトハ

ワールド

アングル:トランプ米大統領のAI推進、低所得者層へ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:2029年 火星の旅
特集:2029年 火星の旅
2025年5月20日号(5/13発売)

トランプが「2029年の火星に到着」を宣言。アメリカが「赤い惑星」に自給自足型の都市を築く日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    ワニの囲いに侵入した男性...「猛攻」を受け「絶叫」する映像が拡散
  • 4
    「運動音痴の夫」を笑う面白動画のはずが...映像内に…
  • 5
    MEGUMIが私財を投じて国際イベントを主催した訳...「…
  • 6
    配達先の玄関で排泄、女ドライバーがクビに...炎上・…
  • 7
    米フーターズ破綻の陰で──「見られること」を仕事に…
  • 8
    大手ブランドが私たちを「プラスチック中毒」にした…
  • 9
    メーガン妃とヘンリー王子の「自撮り写真」が話題に.…
  • 10
    コストコが「あの商品」に販売制限...消費者が殺到し…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    ワニの囲いに侵入した男性...「猛攻」を受け「絶叫」する映像が拡散
  • 4
    カヤック中の女性がワニに襲われ死亡...現場動画に映…
  • 5
    母「iPhone買ったの!」→娘が見た「違和感の正体」に…
  • 6
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 7
    あなたの下駄箱にも? 「高額転売」されている「一見…
  • 8
    トランプ「薬価引き下げ」大統領令でも、なぜか製薬…
  • 9
    ヤクザ専門ライターが50代でピアノを始めた結果...習…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
  • 6
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 7
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 8
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 9
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 10
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story