コラム

戦狼外交から「微笑外交」に豹変した中国...欧州に「再接近」する習近平主席の狙いとは?

2024年05月08日(水)16時49分

ドゴール「フランスは世界をありのままに認めているだけ」

「中仏国交樹立を導いた精神を継承し、世界の平和と発展のために共に努力する」と題した仏紙フィガロへの寄稿(5日)で、習主席は「シャルル・ドゴール将軍(仏大統領)は60年前、時代の趨勢に基づく戦略的ビジョンをもって新中国との国交樹立を決意した」と記す。

環球時報は、国交樹立後の会見でドゴールが「フランスは世界をありのままに認めているだけだ 」と述べたエピソードを紹介。ドゴールは中国文明の歴史を信じ、世界の発展は中国抜きにはあり得ないと強調したと伝え、ドゴールを意識するマクロン大統領に秋波を送った。

「冷戦最中に独自の決断を下すのは容易ではなかったはずだ。それが正しく、先見の明があったことは証明済みだ。歴史は最良の教師だ。世界は平穏とは程遠く、再び多くのリスクに直面している。国際社会の協力強化に新たな貢献をするためフランスと協力する用意がある」(習主席)

習主席が世界の平和と安定を守るため持ち出してきたのは(1)領土保全及び主権の相互不干渉(2)相互不侵略(3)内政不干渉(4)平等互恵(5)平和的共存――という1954年に中国の周恩来首相とインドのジャワハルラル・ネルー首相の間で合意された平和5原則だ。

「戦狼外交」から「微笑外交」に豹変した習主席

1978年、ベトナム戦争で疲弊した米国は中国との国交を正常化し、ソ連との分断を図った。「戦狼外交」から「微笑外交」に豹変した習主席の欧州再接近には日米との分断を図る狙いが透けて見えるが、逆に日米欧にとっては中国とロシアの間にくさびを打ち込むチャンスになる。

ウクライナ侵攻直前、プーチンは北京冬季五輪の開会式出席に合わせて習主席と会談、同盟とまでは行かないものの「不可侵条約」と言える中露共同声明を発表。「北大西洋条約機構(NATO)のさらなる拡大に反対する」と限界なき戦略的パートナーシップまでぶち上げた。

ウクライナ戦争について、習主席は「長引けば長引くほど、欧州と世界に及ぼす害は大きくなる。中国は早期に欧州に平和と安定が戻ることを願っている。われわれはフランスや国際社会全体と協力し、危機を打開する合理的な方法を見つける用意がある」と強調した。

欧州と中国はともに資源輸入国で製品輸出国。米国債の大量保有国である中国は不動産バブルの崩壊でデフレ懸念が高まる。習主席は無様なプーチンの敗北は望まないだろう。しかしウクライナ戦争だけでなくイスラエル・ハマス戦争の早期終結でも国際社会の利害は一致している。

ニューズウィーク日本版 高市早苗研究
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月4日/11日号(10月28日発売)は「高市早苗研究」特集。課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら



プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

12月利下げは不要、今週の利下げも不要だった=米ダ

ビジネス

利下げでFRB信認揺らぐ恐れ、インフレリスク残存=

ワールド

イスラエル軍がガザで攻撃継続、3人死亡 停戦の脆弱

ビジネス

アマゾン株12%高、クラウド部門好調 AI競争で存
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 5
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 6
    必要な証拠の95%を確保していたのに...中国のスパイ…
  • 7
    海に響き渡る轟音...「5000頭のアレ」が一斉に大移動…
  • 8
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 9
    【ロシア】本当に「時代遅れの兵器」か?「冷戦の亡…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story