コラム

ウクライナ戦争の行方は、春には決まる...鍵を握る、ロシアに「残された勝利への道筋」

2023年02月23日(木)10時46分

独キール世界経済研究所によると、軍事・人道・金融支援は米国732億ユーロ、欧州連合(EU)と加盟27カ国で計549億ユーロ、英国83億1000万ユーロ。軍事支援に限ると米国443億ユーロ、英国49億ユーロ、ポーランド、ドイツ各24億ユーロ、カナダ13億ユーロと続く。米英とポーランドの支援がなかったらウクライナはプーチンの手中に落ちていた。

「プーチンはNATOをフィンランド化(対ロシア宥和主義)できると考えていた。 その代わりフィンランドとスウェーデンのNATO化を手にした。NATOはかつてないほど団結している。われわれは欧州のロシア産化石燃料への依存を終わらせるため協力している」とバイデン氏は力説した。ウクライナはロシアが一時支配していた地域の50%以上を奪還した。

「EU加盟国の制裁実施は10点満点で4点ぐらい」

「世界の民主主義は弱まるどころか、より強くなっている。世界の独裁者は強くなるどころか弱くなっている」とバイデン氏は言った。昨年10月、国連総会で143カ国がプーチンの違法な4州併合を非難した。棄権は中国、インド、南アフリカ、ベトナムなど35カ国。ロシア支持に回ったのはベラルーシや北朝鮮、シリア、ニカラグアの4カ国だった。

しかしウクライナに軍事支援する有志連合は「50カ国以上」にとどまるのも現実だ。トム・キーティングRUSI(英国王立防衛安全保障研究所)金融犯罪・安全保障研究センター所長は「EU加盟国の制裁実施は10点満点で4点ぐらい。8~9点の国もあれば1~2点の国もある。ハンガリーでは99.9%が制裁に反対というまことしやかな調査結果すらある」と指摘する。

「EUの制裁実施と結束は今年、本当に重要になる。クレムリンはアフリカ全域のPRキャンペーンに勝利している。米欧は南アフリカ、アラブ首長国連邦(UAE)、トルコなど第三勢力を巻き込む必要がある。自国の食糧や安全保障の問題が米欧の制裁によって影響を受けていると考えている国々に外交を展開しなければならない」(キーティング氏)

戦車や長距離ミサイル、戦闘機は戦争を一挙に打開する「魔法の弾丸」になり得るのか――。RUSIのジャック・ワトリング上級研究員は「魔法の弾丸はない。魔法の弾丸は何かに長い間とらわれてきた結果、もっと重要な、ウクライナ軍に提供される兵器の持続性・信頼性・標準化についての議論がおろそかにされてきた」と語る。

「プーチン演説は国民が長い戦争に備えるための試み」

戦争に大きな影響を与えた兵器を一つ挙げるとしたらHIMARSや多連装ロケットシステム(MLRS)から発射できる誘導弾GMLRSだ。「ロシアの兵站や補給線を粉砕したが、備蓄も非常に限られていて製造に時間がかかる」とワトリング氏は指摘する。前線で機会や優位性を生み出す高度な兵器を提供しても優位性を維持できる能力を確保することが重要だ。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

日経平均は小反発、クリスマスで薄商い 売買代金は今

ワールド

タイ11月輸出、予想下回る前年比7.1%増 対米輸

ワールド

中国で一人っ子政策の責任者が死去、ネットで批判の投

ビジネス

11月百貨店売上は0.9%増で4カ月連続プラス、イ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 2
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story