コラム

ウクライナ戦争の行方は、春には決まる...鍵を握る、ロシアに「残された勝利への道筋」

2023年02月23日(木)10時46分

陸戦に詳しいワトリング氏は「ロシア軍の攻撃がウクライナ軍の抵抗を一掃するという憶測は事実ではない。ロシア軍にそれだけの戦闘力はない。しかし現在のロシア軍の攻勢に対してウクライナ軍が予備部隊を投入せざるを得なくなる恐れがある。そうなれば多くの異なる軸に兵力を分散させることを余儀なくされ、攻撃能力を台無しにしてしまう」と分析する。

ロシア軍が多軸攻撃、ウクライナは新部隊を増強、その間にロシア軍が追加動員をかける悪循環に陥れば戦争の長期化は避けられない。逆にウクライナ軍が予備部隊を投入することなくロシア軍の攻勢をしのげれば、ウクライナ軍が春季攻勢をかけ、追加部隊で攻勢を強化する好循環に入る。「今後2~3カ月がまさに戦争の行方を決める」(ワトリング氏)のだ。

キングス・カレッジ・ロンドンのトレーシー・ジャーマン紛争・安全保障学教授は「2時間に及んだプーチンの演説はロシア国民が長い戦争に備えるための試みのように感じられた。興味深いのは『特別軍事作戦』への参加者とその家族を援助する国家基金の設立を発表したことだ。プーチンも犠牲者の規模と支援の必要性を認めざるを得なくなった」と言う。

プーチンは持久戦、すなわち消耗戦に持ち込み、米欧をウクライナから引き剥がそうとしている。核兵器の実験に言及したのは、エスカレーションの次のステップをほのめかしたのかもしれない。米欧には支援の継続と団結、ウクライナに提供する武器・弾薬の持続性・信頼性・標準化を高めていくことが求められる。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ

ニュース速報

ビジネス

欧州委、中国とのデカップリング望まず 自由貿易阻害

ワールド

ロシア首相、2024年の予算支出26%増を発表 大

ワールド

焦点:移民抑制へ「海上封鎖」求めるイタリア、EU内

ワールド

アングル:バルカン半島のミクロ国家「リベルランド」

今、あなたにオススメ

MAGAZINE

特集:グローバルサウス入門

特集:グローバルサウス入門

2023年9月19日/2023年9月26日号(9/12発売)

経済成長と人口増を背景に力を増す新勢力の正体を国際政治学者イアン・ブレマーが読む

メールマガジンのご登録はこちらから。

人気ランキング

  • 1

    マイクロプラスチック摂取の悪影響、マウス実験で脳への蓄積と「異常行動」が観察される

  • 2

    J.クルーのサイトをダウンさせた...「メーガン妃ファッション」の影響力はいまだ健在

  • 3

    墜落したプリゴジンの航空機に搭乗...「客室乗務員」が、家族に送っていた「最後」のメールと写真

  • 4

    アメックスが個人・ビジネス向けプラチナ・カードを…

  • 5

    最新兵器が飛び交う現代の戦場でも「恐怖」は健在...…

  • 6

    毒を盛られたとの憶測も...プーチンの「忠実なしもべ…

  • 7

    米美人タレント、整形と豊胸でおきた「過酷な経験」…

  • 8

    ワグネルに代わるロシア「主力部隊」の無秩序すぎる…

  • 9

    中国の原子力潜水艦が台湾海峡で「重大事故」? 乗…

  • 10

    「映画化すべき!」 たった1人のロシア兵が、ウクラ…

  • 1

    コンプライアンス専門家が読み解く、ジャニーズ事務所の「失敗の本質」

  • 2

    突風でキャサリン妃のスカートが...あわや大惨事を防いだのは「頼れる叔母」ソフィー妃

  • 3

    米モデル、ほぼ全裸に「鉄の触手」のみの過激露出...スキンヘッドにファン驚愕

  • 4

    インドネシアを走る「都営地下鉄三田線」...市民の足…

  • 5

    「死を待つのみ」「一体なぜ?」 上顎が完全に失われ…

  • 6

    中国の原子力潜水艦が台湾海峡で「重大事故」? 乗…

  • 7

    墜落したプリゴジンの航空機に搭乗...「客室乗務員」…

  • 8

    常識破りのイーロン・マスク、テスラ「ギガキャスト」に…

  • 9

    「この国の恥だ!」 インドで暴徒が女性を裸にし、街…

  • 10

    「特急オホーツク」「寝台特急北斗星」がタイを走る.…

  • 1

    墜落したプリゴジンの航空機に搭乗...「客室乗務員」が、家族に送っていた「最後」のメールと写真

  • 2

    中国の原子力潜水艦が台湾海峡で「重大事故」? 乗組員全員死亡説も

  • 3

    イーロン・マスクからスターリンクを買収することに決めました(パックン)

  • 4

    <動画>ウクライナのために戦うアメリカ人志願兵部…

  • 5

    「児童ポルノだ」「未成年なのに」 韓国の大人気女性…

  • 6

    コンプライアンス専門家が読み解く、ジャニーズ事務…

  • 7

    サッカー女子W杯で大健闘のイングランドと、目に余る…

  • 8

    バストトップもあらわ...米歌手、ほぼ全裸な極小下着…

  • 9

    「これが現代の戦争だ」 数千ドルのドローンが、ロシ…

  • 10

    「この国の恥だ!」 インドで暴徒が女性を裸にし、街…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story