コラム

崖っぷちに追い込まれる英国の自動車産業が巻き込まれた、アメリカ対EU「緑の貿易戦争」

2023年01月26日(木)18時55分
トヨタの英国工場から輸送される新車

トヨタの英国工場から輸送される新車(2017年) Darren Staples-Reuters

<英国の自動車生産は66年ぶり最低水準に。電気自動車の生産が大幅に増加している一方で、バッテリー企業は倒産>

[ロンドン]英国の自動車生産台数は昨年、世界的な半導体不足と国内工場の閉鎖、中国のゼロコロナ政策による供給停滞で対前年比9.8%減の77万5014台に落ち込んだ。1956年以来最低の水準だ。電気自動車(EV)用バッテリーの新興企業ブリティッシュボルトも倒産し、英国の自動車産業はいよいよ崖っぷちに追い込まれている。

230126kmr_bvg01.png

英国の年間自動車生産台数推移(SMMT提供)

英自動車製造販売者協会(SMMT)のマイク・ホーズCEO(最高経営責任者)によると、2021年比で8万4561台減、パンデミック前の19年の生産台数130万3135台から40.5%減、実に53万台近くも生産が落ち込んだ。半導体の深刻な不足により需要に応じて生産できなくなったことや、ホンダの撤退、EV化に伴うボクスホール工場の閉鎖が響いた。

一方、バッテリー式(BEV)、プラグインハイブリッド式(PHEV)、ハイブリッド車のEV生産は過去最高の23万4066台(対前年比4.5%増)に達した。全自動車生産の30.2%に相当する。17年以降、BEV、PHEV、ハイブリッド車の輸出額は13億ポンドから100億ポンド以上へと7倍以上増えた。英国の全自動車輸出額の4.1%から44.7%を占めるまでになった。

中でもBEVの輸出額は8170万ポンド(約131億円)から13億ポンド(約2084億円)へと16倍近く膨れ上がった。ホーズ氏は「英国の自動車製造業にとって昨年がいかに厳しいものであったかを数字は如実に物語っている。英国はバッテリー生産の急速な拡大とEVシフトを推進する戦略を立てる必要がある」と25年に100万台に戻すことを目指している。

2030年以降、英国での販売が危ぶまれるトヨタ・カローラ

「2050年ネットゼロ(温室効果ガス排出量を全体でゼロにする)」を目指す英政府はガソリン車とディーゼル車の新車販売を30年までに段階的に廃止する。「かなりの距離」をゼロエミッションで走行できるハイブリッド車や、PHEVは35年まで新車販売が認められる。

排気ガスを出さずに走行できる「かなりの距離」が何キロメートルなのか間もなく英政府から発表されるとみられるが、ホーズ氏ですらまだ「分からない」と首を振る。トヨタ自動車が英国で生産するカローラはハイブリッド車で、30年に新車販売はできなくなる恐れがある。そうなれば英国工場を維持するのが難しくなる。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国の習主席、韓国大統領と電話会談 相互の尊重と友

ワールド

LA移民抗議デモで海兵隊派遣、トランプ氏は加州知事

ビジネス

ファーウェイの半導体は米国より1世代遅れ、改善を模

ワールド

イラン、イスラエルによる核施設攻撃巡り警告=IAE
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラドールに涙
  • 4
    猫に育てられたピットブルが「完全に猫化」...ネット…
  • 5
    日本の女子を追い込む、自分は「太り過ぎ」という歪…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    ひとりで浴槽に...雷を怖れたハスキーが選んだ「安全…
  • 8
    50歳を過ぎた女は「全員おばあさん」?...これこそが…
  • 9
    プールサイドで食事中の女性の背後...忍び寄る「恐ろ…
  • 10
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story