コラム

「規則は自分たち以外に適用される」...カタールW杯めぐる疑惑で見えてきたEUの深すぎる闇

2022年12月14日(水)17時26分

新事務総長の人事を巡り、欧州議会の多くの政治グループ間で不透明な裏取引が行われたとハルテン事務局長は問題視する。「今こそ抜本的な改革を行うべき時だ。第一歩として欧州委員会は調査および執行の権限を持つ独立したEU倫理機関の創設に関する提案を今すぐ行うべきだ」と求め、ウルズラ・フォンデアライエン欧州委員長もこれに応じた。

ハルテン事務局長は「トップ人事がいかなる形の内部調査や公的調査も行われることなく、真夜中に採択された。全く容認できない。欧州市民はEU機関が透明で説明責任を果たすことを期待している。こうした不透明なプロセスが"悪政の温床"になっているのだ」と憤る。

ロビー活動の正常化に取り組んでいるパリ経営大学院のアルベルト・アレマンノ教授(EU法・政策)は「欧州議会のカタール・スキャンダルで複数のパンドラの箱が一度に開いた」とツイートし、問題点を4つ列挙した。
(1) 欧州議会議員のためのEU倫理システムの欠陥(カイリ氏)
(2) 欧州議会議員の再就職先に関する規制の欠如 (パンツェリ氏)
(3) EUに対する外国の影響力の大きさ(カタール)
(4)腐敗にまみれたW杯カタール大会

地に落ちたブランジェリーナ

オランダ紙NRCハンデルスブラット紙にアレマンノ教授は「今回の事件はブリュッセルの倫理的ルールの弱さにスポットライトを当てた。欧州議会でロビー活動が行われることに何の問題もない。しかし欧州議会が自ら緩めた倫理的ルールの弱さが議会を腐敗に対して最も脆弱な穴にしている。自業自得だ」と指摘している。

元テレビ司会者のカイリ氏と夫ジョルジ氏の2人は欧州議会で最も華やかな夫婦の1組でキャリアも絶頂に達していた。ブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリー(離婚)になぞらえて「ブランジェリーナ」と呼ばれていた。事件の背景は今後の捜査を待たなければならないが、事件はEUにおけるロビー活動の闇を白日の下にさらした。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

マスク氏、FRBへDOGEチーム派遣を検討=報道

ワールド

英住宅ローン融資、3月は4年ぶり大幅増 優遇税制の

ビジネス

日銀、政策金利を現状維持:識者はこうみる

ビジネス

アルコア、第2四半期の受注は好調 関税の影響まだ見
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 10
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story