コラム

砲撃戦で逆転したウクライナ 「ブラック・ホーネット」で領土奪還の市街戦に前進か

2022年08月26日(金)20時45分

ジョンソン氏の置き土産となった最先端ドローンの中には手のひらサイズのマイクロドローン「ブラック・ホーネット」850機も含まれる。市街戦での使用に特化して設計され、建造物の影に隠れた敵兵の位置を正確に探り出す。小さなヘリコプター型ドローンの操縦は20分以内の訓練で習得できる。

ライブビデオと静止画像を送信し、歩兵部隊が安全に市街戦を戦えるようにする「切り札」だ。

ウクライナ国防省は「キーウへ再びようこそ、ジョンソン首相。 850機のマイクロドローンを含む5400万ポンドの英国の新パッケージはウクライナ軍を大いに支援する。われわれは絶対に降伏しない」とツイートした。オモチャのヘリコプターのように見える全長16.8センチメートルの「ブラック・ホーネット」はアフガニスタン戦争で英軍が使用した。

ノルウェーで開発され、重さ32グラム、1機1万ポンド(約162万円)。最高速度は時速17.7キロメートル、航続距離約1.9キロメートル、飛行時間25分。コントローラーで遠隔操作するが、全地球測位システム(GPS)を利用した自動航行も可能で、暗視機能も備わっている。ローター音は静かで、建造物内でも敵兵に気づかれず接近できる。

「操作が簡単で丈夫、発見されにくく、市街戦に適している」

機首に内蔵された前方、前方下向き45度、真下のマイクロカメラ3台からリアルタイムで送られてくる高画質の映像や画像を17.8センチメートル弱の液晶ディスプレイで視ることができる。ウクライナ当局はロシアとの市街戦能力を向上させるため、羽虫のように敵兵の位置を探る「ブラック・ホーネット」の提供を西側に求めてきた。

ノルウェーのビョルン・アリルド・グラム国防相は「わが国が開発したドローンは世界市場をリードする。米国や英国を含む多くの同盟国で使用されているこのドローンは偵察や標的の確認に使用される。操作が簡単で丈夫、発見されにくく、特に都市部での戦闘に適している。これはウクライナに対する西側の戦闘支援に新たな方向性をもたらす」と胸を張った。

英国のベン・ウォレス国防相も「ノルウェーと英国はウクライナと肩を組み続ける決意を持っている。これらの最先端ドローンはプーチンの残忍でいわれなき侵略から国を守るために戦うウクライナの軍隊に戦場での重要な優位性をもたらすだろう」と強調した。市街戦は民間人が暮らす市街地や集落など、建造物が密集する複雑な地形の中で行われる。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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