コラム

「兵士は家畜扱い」「囚人は生殖器を切られ...」 除隊したロシア兵が明かした戦場の現実

2022年08月19日(金)17時30分
親ロシア派兵士

マリウポリの親ロシア派兵士(2022年5月) Alexander Ermochenko-REUTERS

<「どこへ行くのか分からないが、荷物をまとめて移動せよ」という命令で戦場に送られた挙句、約束されていた負傷手当は支払われず>

[ロンドン発]ロシア軍がウクライナに全面侵攻した今年2月、南部ヘルソンに送り込まれた露空挺部隊のパヴェル・フィラティエフさん(33)は今月1日、自らのソーシャルメディアに141ページの手記『ZOV』を公表した。調査報道を手掛けるロシアの独立系ウェブサイト「 iStories(インポータント・ストーリーズ、大切な物語)」でも取り上げられた。

フィラティエフさんは露南西部ボルゴグラード出身で、2010年にはチェチェン共和国で兵役に就いた経験を持つ。その後、馬の調教師などをしたが仕事を失って金に困り、昨年8月、改めて兵役契約を結んだ。空挺部隊としてヘルソンの前線に送り込まれたものの、どこに行くのかさえ知らされていなかった。フィラティエフさんは目を負傷して除隊した。

「『戦争』という言葉を口にするのは禁止されていた。しかし、これが戦争だ。ロシア軍がウクライナ軍を撃ち、ウクライナ軍が撃ち返し、砲弾とミサイルが爆発する。その過程で双方の軍人が殺される。『特別作戦』と称して戦争を始めた場所に暮らす民間人も殺された」と手記に綴る。『ZOV』はロシア軍の車両に描かれた「Z」にちなむ。

手記によると、2月20日ごろ、フィラティエフさんの部隊に「これからどこへ行くのか分からないが、荷物をまとめて軽装で移動せよ」との命令が下った。到着したのは、2014年からロシアが支配するクリミア半島の北部アルムヤンスク近くの野原だ。それまで1カ月近く同じクリミア半島の南東部にある訓練場に駐留していたため、部隊はすでに疲れ切っていた。

昨年10月、部隊は急性呼吸器ウイルス感染症に集団感染

「昨年10月に支給された軍服はみすぼらしくてサイズも合わない。落下傘の降下訓練では夜は凍え、みんな寒さで息が詰まる思いだった。多くの兵士は防寒着を持っていなかった。翌日起きたら熱があって肺炎になっていた。1週間以内に私の部隊は約30人が急性呼吸器ウイルス感染症で入院した」とフィラティエフさんは打ち明けている。

ロシア軍が全面侵攻を始める前日の2月23日、師団長がやって来て「明日から日給約7000ルーブル(現在の為替レートで約1万5900円)だ」と告げた。「これは何か重大なことが起きるという明らかな予兆だった」。翌24日午前2時ごろ、フィラティエフさんは装甲車の座席で目を覚ました。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ジャクソン米最高裁判事、トランプ大統領の裁判官攻撃

ワールド

IMF、中東・北アフリカの2025年成長率予測を大

ワールド

トランプ政権の「敵性外国人法」適用は違法 連邦地裁

ビジネス

伊藤忠商事、今期2.2%増益見込む 市場予想と同水
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 7
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 8
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 9
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 10
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story