コラム

サハリン2の権益を失うか...弱い立場の日本はウクライナ戦争「最大の敗者」に?

2022年07月02日(土)19時38分
サハリン2

Sergei Karpukhin-REUTERS

<プーチンが、ロシア政府による実質的なサハリン2の「接収」を命じる大統領令に署名。いち早く撤退を表明していたシェル社と日本勢の差はどこにあったのか?>

[ロンドン発]ウラジミール・プーチン露大統領は6月30日、ロシアに新会社を設立し、極東の石油・天然ガス開発事業「サハリン2」の事業主体「サハリンエナジー」のすべての権利と義務を移管するよう命じる大統領令に署名した。新会社の財産は直ちにロシア政府の所有下に移される。ウクライナを攻めあぐむプーチン氏が「ガス戦争」を激化させた格好だ。

2008年以降、出荷を開始したサハリンエナジーはサハリン北部の油田より原油を生産、原油生産能力は日量15万バレルに達する。ガス田より産出する天然ガスの液化も行っており、年間960万トンのLNG(液化天然ガス)生産能力を有する。LNGの約6割を日本に供給しており、わが国にとってエネルギー安全保障上の意義は大きい(三菱商事)。

株主は露天然ガス独占企業ガスプロムが50%+1株、英エネルギー大手シェル(旧ロイヤル・ダッチ・シェル)が27.5%-1株、三井物産12.5%、三菱商事10%。シェルはロシア軍のウクライナ侵攻を受け、2月28日にサハリン2を含むガスプロムおよび関連企業との合弁事業から撤退すると発表した。

シェルのベン・ファン・ブールデン最高経営責任者(CEO)は「欧州の安全保障を脅かす無意味な軍事侵略行為により、ウクライナで人命が失われたことに衝撃を受けており、これを遺憾に思う」と述べ、3月8日には「英政府の新たな指針に沿って、原油、石油製品、ガス、LNGを含むロシアのすべての炭化水素への関与から段階的に撤退する」と表明した。

西側の結束に苛立ちを募らせるプーチン氏

主要7カ国首脳会議(G7サミット)が6月26日から3日間にわたりドイツ南部エルマウで開かれ、「財政的・人道的・軍事的・外交的支援を引き続き提供する。ウクライナの軍備増強のため資材・訓練・兵站・インテリジェンス・経済支援を提供するため引き続き調整する」との声明を発表した。西側のウクライナ支援が継続すればロシア軍は撤退を余儀なくされる。

これに苛立ちを爆発させた格好のプーチン氏は27日、ウクライナ中部ポルタワ州クレメンチュクのショッピングモールを長射程空対艦ミサイルKh-22で攻撃した。少なくとも18人が死亡、21人が行方不明になり、59人が負傷した。首都キーウも26日にミサイル攻撃を受け、1人が死亡、6人以上が負傷した。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

豪GDP、第2四半期は前年比+1.8%に加速 約2

ビジネス

午前の日経平均は反落、連休明けの米株安引き継ぐ 円

ワールド

スウェーデンのクラーナ、米IPOで最大12億700

ワールド

西側国家のパレスチナ国家承認、「2国家解決」に道=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 3
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 4
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
  • 5
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 6
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 7
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 8
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 9
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 10
    「人類初のパンデミック」の謎がついに解明...1500年…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 6
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story