コラム

ウクライナ戦争の負傷者を、日本の技術と善意で救え! 「人力車イス」への現地の期待

2022年06月18日(土)18時32分
JINRIKI QUICK

6月17日、車イスの補助具「JINRIKI QUICK」10セットを手渡された国立がん研究所のシプコ所長(右、FFU提供)

<福祉用具会社経営・中村正善氏が開発した「JINRIKI QUICK」は、車イスに補助棒を付けて人力車のように引っ張ることで移動が楽になるアイデア福祉用品>

[キーウ発]6月17日、福祉用具会社経営、中村正善氏が開発した車イスの補助具「JINRIKI QUICK」10セットがキーウの国立がん研究所に届けられた。隣国ポーランドで中村氏が支援団体「フューチャー・フォー・ウクライナ(FFU)」に20セットを寄贈していた。残り10セットはリハビリ施設やパラリンピアンの金メダリストがすでに使用しているという。

「JINRIKI QUICK」は2本の補助棒を車イスの前方に取り付け、前輪を浮かせて人力車のように引っ張るアイデア福祉用品。中村氏が東日本大震災をきっかけに起業して開発した。車イスでの移動が困難な草地や砂浜、雪道でもこの補助具を取り付ければ簡単に移動できる。階段や段差、自然災害、戦災による瓦礫の中でも2人が補助すれば移動が可能になる。

220618kmr_uwc02.JPG

6月4日、ワルシャワでFFUに「JINRIKI QUICK」20セットを寄贈する中村氏(右から3人目、花岡凌氏撮影)

筆者と妻の史子=元日本テレビロンドン支局報道プロデューサー=は寄贈先探しを手伝ったご縁で5月28日~6月4日、中村氏らの「チームJINRIKI」ポーランドキャラバンに同行した。ウクライナでは東・南部でロシア軍との戦闘が続き、今も戒厳令が敷かれている。今回、中村氏らはスケジュールがつかず、ウクライナ入りを断念した。

この日の引き渡し式は日本の共同通信だけでなく、ウクライナのテレビ局も取材した。中村氏も日本からSNSのテレビ電話で参加した。国立がん研究所のアンドリー・シプコ所長は「ウクライナでは現在、多くの人が車イスを必要としている。この補助具があれば車イスを利用する患者の移動が簡単になる」と表情をほころばせた。

兵士の負傷者数は軍の機密事項

国立がん研究所は臨床・研究において国際的な評価を得ているがんセンターで、ウクライナの専門的かつ高度医療に不可欠な存在だ。年間25万人が診察に訪れ、3万人が治療を受けている。研究所は現在、ウクライナ軍の監視下に置かれており、FFU戦略開発責任者オレーナ・ニコライエンコさんの仲介で取材が可能になった。

220618kmr_uwc03.JPG

足に砲弾の破片を受け、車イスを利用する男性(筆者撮影)

シプコ所長の案内で研究所内を回ると、足を負傷した2人の屈強な男性に出会った。2人の手はゴツくて分厚かった。1人は車イスを利用していた。もう1人は間もなく退院する。シプコ所長は「砲弾の破片で負傷した」と説明した。2人が民間人なのか、ウクライナ軍や領土防衛隊の兵士なのかは教えてもらえなかった。兵士の負傷者数は軍の機密事項なのだ。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

和平計画、ウクライナと欧州が関与すべきとEU外相

ビジネス

ECB利下げ、大幅な見通しの変化必要=アイルランド

ワールド

台湾輸出受注、10カ月連続増 年間で7000億ドル

ワールド

中国、日本が「間違った」道を進み続けるなら必要な措
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 7
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 8
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 9
    【クイズ】中国からの融資を「最も多く」受けている…
  • 10
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 8
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 9
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 10
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story