コラム

今度はディオールの写真を「人種差別」と吊し上げた中国共産党の真意

2021年11月26日(金)13時52分

現に、中国のインターネット規制当局は、有名人のコンテンツが異常な美学、下品なスキャンダルを誇張したり、ファンが盲目的に有名人を偶像化するよう誘導したり、違法・非倫理的な過去を持つ芸能人のカムバックを誇大宣伝したりするコンテンツを禁止するネガティブリストを設けると発表したばかり。

5カ年計画に盛り込まれたナショナルブランド戦略

ディオールは2019年に、会社の採用イベントで台湾を省略した中国の地図を表示し、大騒ぎになったことがある。今年9月には、オンラインプラットフォームで市場基準を満たしていないTシャツを販売したとして5万7600人民元(約104万円)の罰金を科せられた。シャネルも虚偽宣伝や市場基準を満たしていない商品の販売で罪に問われている。

中国共産党機関紙の国際版、環球時報(電子版)によると、ルイ・ヴィトンが写真撮影した中国人モデルの服装や髪型が清王朝時代風だとしてネチズンから突き上げられた。イタリアの高級ブランド、ドルチェ&ガッバーナは中国人モデルが箸を使ってイタリア料理を食べようと奮闘する様子を撮影し、中国文化を侮辱していると非難された。

中国文化を侮辱したとされたD&Gの広告


これらの動きはすべて中国共産党のナショナルブランド戦略と関係している。ロンドンに拠点を置くブランド価値・戦略コンサルティング会社ブランド・ファイナンスによると、世界のトップ25ブランドに入ったアジア企業は17年時点で7社。このうち中国企業は4社、日本企業はトヨタ自動車とNTTグループの2社だった。

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ブランド・ファイナンスのプレゼン資料より


今年、世界トップ25ブランドに入ったアジア企業は13社に増え、このうち中国企業は11社、日本企業はトヨタ自動車1社に減っていた。
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ブランド・ファイナンスのプレゼン資料より


アジアにおける中国ブランドの支配率は60%

アジア・トップ500ブランドを見ると、ブランド価値総額で中国の支配率は17年の46%から今年60%に拡大。日本と韓国はそれぞれ32%から22%、10%から9%に縮小。中国企業のブランド価値総額は89%増の1兆7504億5千万ドル、日本企業は2%減の6402億8400万ドル、韓国企業のブランド価値総額は24%増の2514億7600万ドルだった。

5月集計では中国のトップ500ブランドの価値総額は1兆9400億ドルに達していた。同社の中国最高責任者スコット・チェン氏は「鄭和は大艦隊を率いて中東、アフリカで中国ブランドを売っていた。いま中国には1万以上のブランドがあり、第14次5カ年計画(21~25年)で10のナショナルブランドを構築することがうたわれた」と語る。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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