コラム

英で下院議員殺害 ソマリア系イスラム教徒の犯行 背景に政治の分断とコロナの閉塞感か

2021年10月16日(土)13時09分

下院議員に対する犯罪は16~20年に678件報告されている。このため議会を離れた場所での議員警護費は10年度の3万7823ポンド(約594万2千円)から、コックス議員が殺害された翌年の17年度に457万8600ポンド(約7億1930万円)にハネ上がり、19年度には338万172ポンド(約5億3100万円)となっている。

エイメス議員は敬虔なカトリック教徒で5人の子供がおり、娘のアレックスさん(31)が数週間前に結婚式を挙げたばかり。38年間下院議員を務め、EU離脱を強硬に訴えた欧州懐疑主義者。同性婚や人工妊娠中絶に反対、動物愛護の立場から英伝統のスポーツハンティングであるキツネ狩りにも反対し、動物実験の禁止も訴えた。

イギリスではEU離脱で政治の分断が広がっている。北アイルランドはアイルランドとの国境を開いたままにするため、逆に北アイルランドと英本土間に非関税障壁が生じ、朝食用のイギリス産ソーセージやベーコンを北アイルランドに持ち込めなくなった。これに対してイギリスに留まることを望むプロテスタント系ユニオニストの反発が強まっている。

コロナ危機による閉塞感

イギリスでは3回目のブースターワクチンの接種が始まり、筆者も接種を済ませたばかり。コロナ危機で1年半もの間、我慢を強いられてきたイギリスでも出口が見えてきた。しかし、一時帰休保障や低所得者向け社会保障給付の週20ポンド(約3144円)上乗せも打ち切られるため、蓄えのない低所得者層に不安が広がっている。

そこにEU離脱による供給制約や需要の回復がガスや電気などエネルギー料金の値上げや食料品の高騰を引き起こし、家計を直撃している。ボリス・ジョンソン英首相はツイッターで「彼は最も親切で素晴らしく、紳士的な政治家の一人だった」とエイメス議員の死を悼んだ。ジョンソン首相はとにかく社会不安の解消を急ぐべきだ。

英南西部プリマスでは8月に「私は童貞。社会的に孤立し、交際相手の女性を見つけられない」と告白していた22歳の非モテ男子が散弾銃で母親を殺害して自宅を飛び出し通りがかった父娘を射殺、さらに2人を殺害、2人を負傷させて自殺する事件が起きた。銃規制が厳しいイギリスで銃乱射事件が起きるのは11年ぶりだった。

MI5のマッカラム長官はイスラム過激派だけでなく白人至上主義者による極右テロ計画も増加傾向にあると警鐘を鳴らしている。今回、動機はまだはっきりしないものの、広い意味で貧富の格差拡大による社会的な絶望感がテロの引き金になっているのはほぼ間違いないだろう。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米、イスラエルと行動を調整 ガス田再攻撃の抑制要請

ワールド

トランプ氏、真珠湾攻撃引き合いに イラン攻撃巡り

ワールド

トランプ氏、中東への米軍追加派遣否定 対イラン作戦

ビジネス

米新規失業保険申請、8000件減の20.5万件 金
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:イラン革命防衛隊
特集:イラン革命防衛隊
2026年3月24日号(3/17発売)

イスラム神権国家を裏からコントロールする謎の軍隊の歴史と知られざる実力

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え時の装いが話題――「ファッション外交」に注目
  • 2
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期スペイン女王は空軍で訓練中、問われる「軍を知る君主」
  • 3
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 ──「成功」が招く自国防衛の弱体化
  • 4
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 5
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 6
    原油高騰よりも米国経済・米株市場の行方を左右する…
  • 7
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポ…
  • 8
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する…
  • 9
    トランプ暴走の余波で加熱するW杯「ボイコット論」..…
  • 10
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期スペイン女王は空軍で訓練中、問われる「軍を知る君主」
  • 3
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が発生し既に死者も、感染源は「ナイトクラブ」
  • 4
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 6
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 7
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポ…
  • 8
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目の…
  • 9
    住宅建設予定地に眠っていた「大量の埋蔵金」...現在…
  • 10
    「ネタニヤフの指が6本」はなぜ死亡説につながったの…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 10
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story