コラム

ブレークスルー感染はこうして防げ 英オックスフォード大学がツール開発

2021年09月21日(火)18時34分

田村憲久厚生労働相は抗体カクテル療法の自宅での投与について「モデル事業のような形で進める。問題点を抽出し、全国展開を図りたい」と述べた。当初、入院患者に限定して使用していたが、宿泊療養施設や外来診療でも認められ、コロナ病床が逼迫する中、自宅療養者に往診で投与できるようにとの要望が強まっていた。

大阪府は今月17日、大阪市内の自宅療養者1人に全国で初めて往診で抗体カクテル療法を実施した。吉村洋文知事は「自宅療養者をできるだけ早く治療し、重症化したり、自宅で亡くなったりする人を1人でも減らしたい」と話した。これまでは急性のアレルギー症状などがまれに起きるため、入院や外来診療でしか認められていなかった。

抗体カクテル療法は症状が現れてから7~10日以内に投与すれば入院を防ぐ高い効果がある。30分ほどの点滴または4回の注射で投与される。日本では7月に特例承認された。現在、日本の自宅療養者は6万人。発症者に限って投与するとしても50万回分の「弾薬」はいつまで持つのだろう。

英は冬に最大の山が来ると警戒

すでに15万7千人以上の死者を出しているイギリスではこの冬、1日の入院患者が最大で7千人に達する山が来ると警戒を強めている。これまでのピークは1日4500人だった。50歳以上、高齢者介護施設の入所者や職員、第一線の医療・社会福祉の従事者を対象に米ファイザー製ワクチンを使って3回目の接種を始め、11月初めまでに終了する計画だ。

抗体カクテル療法はブレークスルー感染のハイリスクグループに優先して使用すべきだと専門家は指摘している。

パンデミックとはウイルスとの「戦争」だ。医療経済が徹底しているイギリスではエビデンスに基づき周到に「戦争計画」が立てられる。1回目と2回目はコーヒー1杯分(1回2.18ポンド=327円)のお値段の英アストラゼネカ(AZ)製ワクチンで免疫し、18ポンド(2700円)から22ポンド(3300円)」に値上がりしたファイザー製を3回目に接種する。

1回目も2回目もAZ製だった筆者も妻も3回目で初めてファイザー製を接種する。異なるワクチンを打つのは免疫の訓練効果を高める狙いもある。

コロナ対策はそれぞれの国によって異なる。経常収支が赤字のイギリスは日本のように債務を増やせない。政府債務が青天井で膨れ上がる日本ではコロナ患者を受け入れる病院向けの補助額は重症病床で約2千万円、高額の抗体カクテル療法やレムデシビルも積極的に使用されている。

発症者全員にトランプ前大統領と同じレベルの治療を施せば一体、何が起きるのか。欧米では今回のパンデミックで感染者だけでなく、入院、重症患者、死者が指数関数的に増える恐怖を味わった。欧米に比べ被害が小さい日本では「対症療法」でコロナ危機をやり過ごすことはできても、膨大な借金が将来世代に残される。果たして、それで良いのだろうか。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

テスラ、一部運転支援機能をサブスク課金で提供へ 米

ワールド

中国人民銀、中国・香港市場の連携強化を推進

ワールド

焦点:ダボス会議「トランプ・ショー」で閉幕、恐怖と

ビジネス

緊張感をもって市場の状況を注視=為替で片山財務相
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:「外国人問題」徹底研究
特集:「外国人問題」徹底研究
2026年1月27日号(1/20発売)

日本の「外国人問題」は事実か錯誤か? 7つの争点を国際比較で大激論

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 2
    【銘柄】「住友金属鉱山」の株価が急上昇...銅の高騰に地政学リスク、その圧倒的な強みとは?
  • 3
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 4
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 5
    「外国人価格」で日本社会が失うもの──インバウンド…
  • 6
    「楽園のようだった」移住生活が一転...購入価格より…
  • 7
    麻薬中毒が「アメリカ文化」...グリーンランド人が投…
  • 8
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 9
    私たちの体は「食べたもの」でできている...誰もが必…
  • 10
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 1
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 2
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 3
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味を帯びる「超高齢化」による「中国社会崩壊」
  • 4
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 5
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 6
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 7
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 8
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 9
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の…
  • 10
    麻薬中毒が「アメリカ文化」...グリーンランド人が投…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 7
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 10
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story