コラム

スコットランド議会選 独立派が3分の2近く議席獲得か 英分裂の危機強まる EU離脱がナショナリズムに火を放つ

2021年05月05日(水)14時21分

kimura3.jpeg
炊き出しの料理を煮込むボランティア(筆者撮影)

メル・ギブソンが好演した米映画『ブレイブハート』のウィリアム・ウォレスの歴史が教えてくれるようにスコットランドとイングランドは犬猿の仲。1707年 グレートブリテン王国に吸収され、スコットランド議会は廃止の憂き目にあう。その後スコットランドも産業革命と大英帝国の繁栄の恩恵に預かる。しかし第二次大戦で大英帝国は崩壊し、イングランドもスコットランドも苦難の時代を迎える。

スコットランドが、独立を党是とするSNPを支持し始めたのはイギリス経済が苦境に陥った1970年代以降。サッチャー革命によりスコットランドの石炭、鉄鋼、造船、製造業は壊滅的な打撃を受ける。その一方で潤沢な北海油田の収入はイングランドに吸い取られ、北海油田さえ取り戻せばスコットランドは独立できるという気運が生まれる。地方分権を唱える労働党のトニー・ブレア首相(当時)の登場で1999年にはスコットランド議会が復活した。

これがガス抜きになったのはほんの束の間で、独立の気運はさらに膨らむ。ブレア政権の新自由主義、イラク戦争でスコットランド労働党は民心を失い、SNPが2007年に少数政権を樹立。11年には単独過半数を獲得し、14年に悲願のスコットランド独立住民投票にこぎつけた。しかし賛成45%、反対55%の大差で否決され、独立の気運は収まったが、ジョンソン首相が主導したEU離脱がスコットランド・ナショナリズムに再び火を着けてしまった。

実は用心深いスコットランドの"雌ライオン"

火の玉のような激しい言葉でジョンソン首相を批判するスタージョン氏だが、グラスゴーの有権者は「彼女は用心深い」と口をそろえる。コロナ対策では社会的距離政策、検査、感染防護具の着用を徹底して被害を抑え、封鎖解除も徐々に進めている。SNP前党首でスタージョン氏にとっては「政治の師匠」アレックス・サモンド前党首の性的スキャンダルも英メディアの集中砲火の中、巧みなハンドルさばきでダメージを最小限にとどめた。

スタージョン氏がこれだけ高い支持率を集めるのはスコットランドと住民を愛する「ウォーム・ハート(温かい心)」と「ノー・ナンセンス(真面目)」な政治姿勢にある。「イギリスのワクチン計画が上手く行ったのは強欲さと資本主義のおかげ」「3回目のロックダウンをするぐらいなら死体の山が高く積み上がるのを見た方がマシ」という発言が報じられ、首相公邸を改装するパートナーの散財すら抑えられないジョンソン首相とは大違いである。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ホルムズ海峡船舶護衛、欧州の多くで慎重論 「われわ

ワールド

供給確保優先、ホルムズ海峡のイラン船舶通過「問題な

ワールド

米中首脳会談延期なら、イラン情勢が理由 貿易問題で

ワールド

イラン攻撃で3週間の作戦計画、イスラエル軍 レバノ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:イラン革命防衛隊
特集:イラン革命防衛隊
2026年3月24日号(3/17発売)

イスラム神権国家を裏からコントロールする謎の軍隊の歴史と知られざる実力

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    「ネタニヤフの指が6本」はなぜ死亡説につながったのか?
  • 3
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製をモデルにした米国製ドローンを投入
  • 4
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」…
  • 5
    「筋肉はモッツァレラと同じ」...なぜウォーミングア…
  • 6
    「映画賞の世界は、はっきり言って地獄だ」――ショー…
  • 7
    幼い子供たちの「おぞましい変化」を克明に記録...「…
  • 8
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 9
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目の…
  • 10
    50代から急増!? 「老け込む人」に共通する体の異変【…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 3
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 4
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 5
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 6
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 7
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 8
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 9
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目の…
  • 10
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 6
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体に…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story