コラム

「集団免疫」を封印したイギリス 4カ月ぶりにパブの屋外営業再開で忍び寄る南ア株の影

2021年04月13日(火)12時52分
ソーホーの路上を埋め尽くすロンドンっ子たち

ロンドンの繁華街ソーホーの路上はレストランやパブの飲食客で占拠された(4月12日、筆者撮影)

[ロンドン発]ワクチン接種が進むイギリスで4月12日、レストランやパブの屋外営業が約4カ月ぶりに再開された。夜には気温が摂氏1度まで下がったものの、ロンドンの繁華街は若者たちでごった返した。美容院や衣料品店もオープンし、ショッピングバッグを下げた買い物客でにぎわった。

イングランドでは昨年11月5日から12月2日まで2度目のロックダウン(都市封鎖)が行われた。感染力が最大70%も強い英変異株が広がり始めたロンドンやイングランド南東部ケント州では12月19日から3度目の封鎖に入り、今年1月4日には英全土に拡大された。

50歳以上と基礎疾患を持つハイリスクグループ、医療従事者、介護施設職員全員がワクチンの1回目接種を終え、その数3219万人余に到達した。このうち765万6千人超が2回目の接種も済ませている。1日当たりの新規感染者数も3千人台まで下がり、3月29日に1段階目の封鎖緩和が行われた。

この日の緩和は正常化に向けた4段階ロードマップの2段階目だ。

イギリス人と言えば3度のメシよりパブが好き。ビールがなみなみと注がれたパイントグラスを傾け、おしゃべりするのが大好きだ。散髪にも行けず、自宅でロビンソン・クルーソーのような生活を強いられてきただけに、2メートルの安全距離を忘れて弾けてしまった。

20210412_165402.jpeg
人気のブランド店には若者たちが行列を作った(筆者撮影)

ソーホーでは車道は閉鎖され、レストランやパブが路上に仮設テントを設け、テーブルやイスを並べて接客した。偶然出会った知人の日本人駐在員は「若い日本人スタッフが感染して入院しました。すごく大変でしたが、無事回復しました。今日は早速、散髪に行ってきました」と笑顔を浮かべた。

「一番しんどかったのは昨年末」

学校はちょうどイースター休暇中で、どう見ても高校生にしか見えない若者も一番安いチップスをつまみながら、ビールやカクテルで乾杯していた。若い女性はおヘソや肩を出して飲む気合いの入れようだ。筆者も妻とレストランを2軒はしごしてしまった。

ロンドンで大阪風お好み焼き店「おかん」を3店展開するプリーストマン玄(もと)子さんは「昨年3月の1回目の封鎖は"こんなことが人生の中で起きるんや"という感じでした。一番しんどかったのは2回目の封鎖で終わりが見えなくなった昨年末です。開き直って2カ月かけ、店を改装しました」と振り返る。

20210410_175109.jpeg
お好み焼きの仕込みをするプリーストマン玄子さん(右、筆者撮影)

従業員に対する80%の休業補償がなかったら、店は閉めざるを得なかっただろうと話す。「イギリスのすごいところは細かいことは聞かないことです。英歳入関税庁に登録さえしておけば国籍にかかわらず、従業員に休業補償が出ました。政府の方針もコロッと変わりますが、臨機応変で迅速に対応している感じでした」

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:トランプ氏なら強制送還急拡大か、AI技術

ビジネス

アングル:ノンアル市場で「金メダル」、コロナビール

ビジネス

為替に関する既存のコミットメントを再確認=G20で

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型ハイテク株に買い戻し 利下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ暗殺未遂
特集:トランプ暗殺未遂
2024年7月30日号(7/23発売)

前アメリカ大統領をかすめた銃弾が11月の大統領選挙と次の世界秩序に与えた衝撃

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理由【勉強法】
  • 2
    BTS・BLACKPINK不在でK-POPは冬の時代へ? アルバム販売が失速、株価半落の大手事務所も
  • 3
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子どもの楽しい遊びアイデア5選
  • 4
    キャサリン妃の「目が泳ぐ」...ジル・バイデン大統領…
  • 5
    地球上の点で発生したCO2が、束になり成長して気象に…
  • 6
    カマラ・ハリスがトランプにとって手ごわい敵である5…
  • 7
    トランプ再選で円高は進むか?
  • 8
    拡散中のハリス副大統領「ぎこちないスピーチ映像」…
  • 9
    中国の「オーバーツーリズム」は桁違い...「万里の長…
  • 10
    「轟く爆音」と立ち上る黒煙...ロシア大規模製油所に…
  • 1
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラニアにキス「避けられる」瞬間 直前には手を取り合う姿も
  • 2
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを入れてしまった母親の後悔 「息子は毎晩お風呂で...」
  • 3
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」、今も生きている可能性
  • 4
    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…
  • 5
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理…
  • 6
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子…
  • 7
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 8
    「失った戦車は3000台超」ロシアの戦車枯渇、旧ソ連…
  • 9
    「宇宙で最もひどい場所」はここ
  • 10
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った猛烈な「森林火災」の炎...逃げ惑う兵士たちの映像
  • 3
    ウクライナ水上ドローン、ロシア国内の「黒海艦隊」基地に突撃...猛烈な「迎撃」受ける緊迫「海戦」映像
  • 4
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 5
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラ…
  • 6
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 7
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを…
  • 8
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」…
  • 9
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「…
  • 10
    「どちらが王妃?」...カミラ王妃の妹が「そっくり過…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story