コラム

30歳未満、特に女性はアストラゼネカ製ワクチン接種には細心の注意を 血栓症・血小板減少のリスク

2021年04月08日(木)14時04分
アストラゼネカの新型コロナワクチンの空き瓶

アストラゼネカの新型コロナワクチンの空き瓶(アントワープ、3月18日) Yves Herman-REUTERS

<接種者100万人に4人弱の血栓症、なかでも20代では深刻な副反応が11人に増える>

[ロンドン発]血栓症を誘発する恐れが指摘されている英オックスフォード大学と英製薬大手アストラゼネカの新型コロナウイルス・ワクチン(AZワクチン)について、英医薬品・医療製品規制庁(MHRA)は7日、血栓症が発生する割合は接種者100万人に4人弱だとしてAZワクチン接種のベネフィットはリスクをはるかに上回るとの立場を維持した。

しかし20~29歳では深刻な副反応は約11人に増えるため、感染が収まっている状況ではリスクがベネフィットを上回ると指摘。英予防接種合同委員会(JCVI)は同日、30歳未満に対しては可能な限り、AZワクチンの代わりにm(メッセンジャー)RNAテクノロジーを利用する米ファイザー製、モデルナ製ワクチンを使用するよう勧告した。

すでに欧州連合(EU)加盟国ではAZワクチンの安全性や有効性に対する懐疑論が強まっているため、今回の30歳未満への接種制限はワクチン接種をさらに滞らせる恐れがある。

イギリスではコロナ感染者は436万人を超え、14万9千人以上が死亡。このため3170万人がワクチン接種を受け、このうち373万9千人が2回目の接種も済ませた。ワクチンはコロナ感染による重症化と入院リスクを劇的に減らすため、イングランド公衆衛生サービス(PHE)は今年1~3月だけで少なくとも6千人の命がワクチン接種により救われたと評価する。

しかしAZワクチンの1回目接種直後、血栓症と血小板減少が同時に発生するという極めてまれな有害事象が相次いだ。このためMHRAは血小板減少を伴う脳静脈洞血栓症(CVST)の症例を徹底検証。その結果、3月末までにAZワクチンは2020万回接種され、血栓症79例を確認、うち44例が血小板減少を伴うCVST、35例が血小板減少を伴う他の主要静脈の血栓症だった。

79例のうち19人が死亡(女性13人、男性6人)、11人は50歳未満で、うち3人は30歳未満だった。19人のうち14人は血小板減少を伴うCVSTで、5人は血小板減少を伴う血栓症だった。性別では女性51人、男性28人(18~79歳)。男性よりも女性の方がAZワクチンの接種を受けた直後、血栓症と血小板減少が同時発生するリスクが大きくなっていた。

ファイザー製やモデルナ製に血栓症・血小板減少の兆候なし

これに対してファイザー製、モデルナ製ワクチンでは血栓症と血小板減少が同時に起きる兆候はこれまで報告されていない。MHRAが記者会見で使ったスライドを見ておこう。コロナ感染が落ち着いている状況では10万人当たりのAZワクチン接種による深刻な副反応は20~29歳で1.1人と、集中治療室(ICU)で治療を受ける割合(0.8人)を上回ってしまう。

kimura2021040801.jpg

しかし、それ以外の年齢層ではいずれもベネフィットがリスクを上回る。感染の広がりが中程度や感染が拡大している状況ではすべての年齢層でベネフィットがリスクを上回っている。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

欧州、ウクライナ停戦交渉で「譲れぬ一線」を米に伝達

ビジネス

トランプ米政権、薬価引き下げで国際価格参照制度を検

ワールド

貧困国への融資能力拡大を要請、シンクタンクなどが世

ワールド

インド・カシミール地方で武装勢力が観光客に発砲、2
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 2
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 3
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負かした」の真意
  • 4
    パウエルFRB議長解任までやったとしてもトランプの「…
  • 5
    アメリカは「極悪非道の泥棒国家」と大炎上...トラン…
  • 6
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 7
    日本の人口減少「衝撃の実態」...データは何を語る?
  • 8
    なぜ世界中の人が「日本アニメ」にハマるのか?...鬼…
  • 9
    コロナ「武漢研究所説」強調する米政府の新サイト立…
  • 10
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 6
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 7
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 8
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 9
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 10
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 8
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 9
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 10
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story