コラム

感染症や生物兵器に備える英保健安全保障局が発足「週2度の国民全員検査」の奇想天外

2021年04月05日(月)18時20分

検体のしずくを落とすことで感染の有無を見つける抗原検査法イムノクロマトグラフィーを使った迅速検査はすでにイギリスでは最前線のNHSスタッフ、介護施設の入所者と職員、児童・生徒とその家族、エッセンシャルワーカーら数百万人の命を守るため実施され、効果を上げている。

英当局は130種類以上の迅速検査キットを試しており、採用したキットでも偽陰性が4割前後出たという。さらに偽陽性も1千人に1人未満の割合で出るため、陽性者についてはさらにPCR検査を実施して、陽性検体の5~10%のゲノム解析を行い、新たな変異株の出現と流行を追跡する方針だ。

イギリスでは1日100万人を検査し、週に3万2千のコロナゲノムの解析を行っている。「ワクチンの接種が進むに伴って症例、死亡、入院数のチャートは下がり続けているからこそ、検査と追跡の重要性が増している」とハリーズ氏は寄稿の中で解説している。

段階的に解除されるロックダウン

イギリスでは4月12日から、美容院、ネイルサロン、図書館、動物園、テーマパークが再開され、レストランやパブ、バーの屋外営業が認められる。結婚式への出席者も6人から15人に拡大される。

20210404_140048.jpeg
段階的にロックダウンが解除され、ピクニックを楽しむロンドン市民(4月4日、筆者撮影)

ボリス・ジョンソン首相は「わが国民はウイルスの蔓延を食い止めるために多大な努力を払ってきた。ワクチン接種は引き続き順調に進んでおり、制限を慎重に緩和するロードマップが進行中だ。これらの努力が無駄にならないようにするためにも定期的な迅速検査がさらに重要になる」と述べた。

英製薬大手アストラゼネカと共同でコロナワクチンを開発した英オックスフォード大学ジェンナー研究所のセーラ・ギルバート教授も、ワクチンを設計したテリーザ・ラム准教授、ワクチンを実際に作った臨床バイオ製造施設の責任者キャサリン・グリーン准教授、ワクチンによるT細胞反応を調べたケイティ・エワー教授も女性。

ゲノム解析で変異株をあぶり出すCOVID-19ゲノム・コンソーシアム(COG-UK)のシャロン・ピーコック議長(微生物学)も女性。そして英保健安全保障局のトップ、ハリーズ氏も女性である。

女性の方が男性より協力的で協調性があると言われるが、腕力では生物学的に男性に劣る女性の武器は「言葉」である。だから言葉で組織をまとめるスキルは女性の方が男性より幼い頃から磨かれているとは言えるかもしれない。

その対極をなすのが甚大な被害を出したジョンソン首相、ドナルド・トランプ前米大統領、ブラジルのジャイル・ボルソナロ大統領だろう。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、中国主席との貿易合意に期待 ロシア産原

ワールド

トランプ氏、ウクライナ長距離ミサイル使用許可巡る報

ビジネス

米国株式市場=下落、ダウ330ドル超安 まちまちの

ワールド

米、ロシア石油大手ロスネフチとルクオイルに制裁 ウ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺している動物は?
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 6
    汚物をまき散らすトランプに『トップガン』のミュー…
  • 7
    国立大卒業生の外資への就職、その背景にある日本の…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 9
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 10
    やっぱり王様になりたい!ホワイトハウスの一部を破…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 6
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 9
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 10
    TWICEがデビュー10周年 新作で再認識する揺るぎない…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story