コラム

アストラゼネカ製ワクチンへの疑いは晴れた EUはワクチン戦争よりイギリスと協力せよ

2021年03月23日(火)06時10分
3月19日、アストラゼネカのワクチンを接種して安全性をアピールするジョンソン英首相

3月19日、アストラゼネカのワクチンを接種して安全性をアピールするジョンソン英首相 Frank Augstein/REUTERS

<65歳以上には効かない、血栓症を起こす、などの理由でEUが使用を嫌がったAZワクチンは優れたワクチンだという結果が出た。イギリス製だから叩くという狭量な対応は「副作用」も大きい>

[ロンドン発]英オックスフォード大学と英製薬大手アストラゼネカが共同開発した新型コロナウイルス・ワクチン(AZワクチン)についてアメリカで行われた第3相試験の中間分析が22日公表された。

症状を伴う感染を予防する有効性は79%、重症・重篤化や入院を100%防ぐ上、欧州連合(EU)加盟国から強い疑念が指摘された65歳以上の感染予防の有効性も80%に達することが実証された。

EU加盟国が懸念を唱えた血栓症についてもAZワクチン接種によるリスク増加は認められなかった。

接種が遅れるEUはワクチン確保のため、25、26日のEU首脳会議で、域内で製造されたAZワクチンの対英輸出禁止を協議する方針だ。EUを離脱したイギリスに対するEUの憎悪といじめが一段と浮き彫りになっている。

covid-vaccination-doses-per-capita.jpg

AZワクチンはすでに6大陸70カ国以上で条件付き販売許可、緊急使用が承認されている。世界保健機関(WHO)による公正で平等なコロナワクチン供給を目指すCOVAXを通じて最大142カ国へ供給される予定だ。

EUの一貫性のない身勝手な対応は自分で自分の首を絞めるにとどまらず、途上国へのワクチン供給を混乱に陥れてしまう恐れがある。

最初からパンデミックと戦うために設計されたAZワクチン

最先端のm(メッセンジャー)RNAテクノロジーを使った米ファイザー製、モデルナ製ワクチンに比べ、AZワクチンは低価格で、普通の冷蔵庫でも保管できる。お金がかかるコールドチェーンを必要としないAZワクチンは最初から地球規模のパンデミックと戦うために設計されたワクチンと言えるだろう。

それぞれ地域ごとのワクチン調達価格を見ておこう。

210322vaccineprice.jpg
出所)ブリティッシュ・メディカル・ジャーナルなどを参考に筆者作成

EUは加盟国数や人口規模にモノを言わせて他の地域より低価格でワクチンを調達している。これがEUの掲げる人道主義の「正体」である。

AZワクチンの有効性は全人種・年齢でも同じ

アストラゼネカによると、アメリカでの第3相試験には3万2449人が参加し、このうち141人が発症した。被験者の割合はワクチン接種とプラセボ(偽薬)が2対1。ワクチンの有効性はどの人種や年齢でも一貫していた。

独立したデータ安全性監視委員会は血栓症や脳静脈洞血栓症(CVST)を調べた結果、少なくとも1回のワクチン接種を受けた2万1583人には血栓症やそれに関係したリスクは増加していなかった。CVSTは確認されなかった。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story