コラム

ワクチン陰謀論の標的にされるビル・ゲイツ氏

2020年06月05日(金)19時09分

途上国へのワクチン普及を支援する、マイクロソフト創業者ビル・ゲイツ(2019年11月、北京の国際会議で)  Jason Lee-REUTERS

[ロンドン発]新型コロナウイルスの感染者が660万人、死者が39万人を超える中、最貧国へワクチンを供給する「グローバル・ワクチン・サミット」が4日、オンラインで開かれ、32カ国、12の財団・企業・機関から目標の74億ドルを上回る88億ドル(約9600億円)を調達した。

ホスト国のボリス・ジョンソン英首相は「コロナを打ち負かすワクチンを見つけるため世界の決意を新たにしよう」と宣言。英オックスフォード大学と共同で新型コロナウイルスワクチンを開発する英製薬大手アストラゼネカは英米への供給とは別に3億回分の供給を約束した。

一方では、パンデミックによるワクチン供給網の寸断や移動制限、外出自粛で1歳未満の子供8000万人への予防接種が中断される懸念が膨らんでいる。サミットは、国際連携団体GAVIアライアンス(ワクチンと予防接種のための世界同盟)を通じて2025年末までに最貧国の子供3億人以上に予防接種を行い、700万~800万人の命を救う計画だ。

サミットには、英政府の主催で35カ国の国家元首を含む52カ国の代表、世界保健機関(WHO)、製薬企業、市民団体のリーダーが参加。これに対して国境なき医師団(MSF)はワクチンの公平な分配のため製薬企業から高額ワクチンを買うのではなく原価販売を促すべきだと訴えてきた。

国際協力でワクチン価格が低下

だがこれまで、GAVIアライアンスの努力で5種混合ワクチンや肺炎球菌、ロタウイルスのワクチン価格は2015年から2018年にかけ21%も下がった。新たにインド血清研究所が肺炎球菌ワクチンの供給に加わり、毎年1000万回分を高所得国の公定価格の1.5%未満のわずか2ドルで提供することになった。

新型コロナウイルスワクチンの開発は加速し、9月供給を目指すオックスフォード大学・アストラゼネカのワクチンを含む10種類が臨床試験入り。さらに114種の研究・開発が進められる。中国では5種類の臨床試験が行われており、年内に少なくとも1種の供給が可能という。

オックスフォード大学・アストラゼネカが第2・3相試験に入ったのは、弱毒化したアデノウイルスをベクター(運び屋)に用いた新型コロナウイルスの突起部の遺伝子をエンコードして免疫を引き起こすウイルスベクターワクチン。

アストラゼネカは英米に4億回分、中・低所得国への10億回分を含む20億回分の製造を目指す。このほか世界中で核酸をベースにしたmRNAワクチン、不活化ワクチンが開発中だ。1月9日に中国疾病予防管理センター(CDC)がゲノムを解析してからわずか5カ月というスピードだ。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、職員解雇やプロジェクト削減を警告 政府

ビジネス

9月の米雇用、民間データで停滞示唆 FRBは利下げ

ビジネス

NY外為市場=ドルが対ユーロ・円で上昇、政府閉鎖の

ワールド

ハマスに米ガザ和平案の受け入れ促す、カタール・トル
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
2025年10月 7日号(9/30発売)

投手復帰のシーズンもプレーオフに進出。二刀流の復活劇をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 3
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 4
    「人類の起源」の定説が覆る大発見...100万年前の頭…
  • 5
    イスラエルのおぞましい野望「ガザ再編」は「1本の論…
  • 6
    「元は恐竜だったのにね...」行動が「完全に人間化」…
  • 7
    1日1000人が「ミリオネア」に...でも豪邸もヨットも…
  • 8
    女性兵士、花魁、ふんどし男......中国映画「731」が…
  • 9
    AI就職氷河期が米Z世代を直撃している
  • 10
    【クイズ】1位はアメリカ...世界で2番目に「航空機・…
  • 1
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 4
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけでは…
  • 5
    こんな場面は子連れ客に気をつかうべき! 母親が「怒…
  • 6
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 8
    高校アメフトの試合中に「あまりに悪質なプレー」...…
  • 9
    虫刺されに見える? 足首の「謎の灰色の傷」の中から…
  • 10
    琥珀に閉じ込められた「昆虫の化石」を大量発見...1…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story