コラム

ワクチン陰謀論の標的にされるビル・ゲイツ氏

2020年06月05日(金)19時09分

ワクチンは健康な人に投与するので安全性の確認には細心の注意が求められる。医学研究を支援する英公益信託団体ウエルカム・トラストによると、ワクチン開発には通常10年以上の歳月と5億ドル(約547億円)の費用がかかるという。

infographic-vaccine-development-1200x1850.jpg
出所)ウエルカム・トラスト

パンデミックでワクチン供給と接種が滞り、新型コロナウイルスのワクチン開発に注目が集まる中、SNSを通じ、さまざまな反ワクチン派が活動を活発化させている。最大の標的にされているのがGAVIアライアンスの立役者であるゲイツ財団のビル・ゲイツ氏だ。

世論調査会社ユーガブ(YouGov)の調査では、共和党支持者の44%が「ゲイツ氏が数十億人にマイクロチップを埋め込み、動きをモニターする口実として新型コロナウイルスワクチンの大量接種を利用しようとしている」と信じていた。「ウソだ」と回答したのはわずか26%だ。

陰謀論は欧州でも人気

4年前にドナルド・トランプ米大統領の選挙運動のために陰謀論をまき散らした政治コンサルタントのロジャー・ストーン氏は「ゲイツ氏や他の奴らがわれわれにマイクロチップを埋め込むためウイルスを利用している」と発言している。

ロシアの共産党首脳はゲイツ氏の名前こそ挙げなかったものの「いわゆるグローバリストが新型コロナウイルスワクチン接種の義務化を隠れ蓑に秘密のマイクロチップを大量に人体に移植しようとしている」という陰謀論を展開している。

ゲイツ氏が「社会的距離を維持しながら経済を保つためにどのような変更を行う必要があるか」という問いかけに対し「最終的には回復した人、検査を受けた人、ワクチンを受けた人を示すデジタル証明書がいくつかできるだろう」という見通しを話したのがきっかけだった。

欧州にもワクチン懐疑主義が広がる。英BBC放送によると、イギリスのあるツイッターアカウントは「ゲイツ氏は、ワクチンが70万人を死なせると認めた」とデタラメを書き込み、4万5000回もリツートされた。

イタリアの議員は「ゲイツ氏を人道に対する罪で国際刑事裁判所にかけろ」と叫んだ。

また同国の研究者は「パンデミックは全ての人に予防接種を受けさせるために発明された。すでにおカネで満たされたポケットをさらにおカネと腐敗で満たすためにパンデミックは何度も作り出される」と語る動画をフェイスブックに投稿し、70万回以上も視聴されたという。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

焦点:闇に隠れるパイロットの精神疾患、操縦免許剥奪

ビジネス

ソフトバンクG、米デジタルインフラ投資企業「デジタ

ビジネス

ネットフリックスのワーナー買収、ハリウッドの労組が

ワールド

米、B型肝炎ワクチンの出生時接種推奨を撤回 ケネデ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 6
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 9
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 10
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story