コラム

ドナルド・トランプの『米大統領版アプレンティス』生き残るのは誰だ!

2018年06月13日(水)20時00分

金正恩を称賛するトランプから裏切り者呼ばわりされたトルドー(写真) Yves Herman-REUTERS

[ロンドン発]シンガポールで12日開かれた歴史的な初の米朝首脳会談。米朝戦争という最悪の事態は回避したものの、北朝鮮の非核化という核心問題では中身も方法も期限も明記されず、零点と言っても差し支えない内容だ。

これから協議を始めることで同意した政治ショーに過ぎなかった。

一つ間違えば核戦争の引き金に

米リアリティ番組『アプレンティス(実習生)』で人気が爆発したドナルド・トランプ氏が米大統領になってから政治も外交も完全にリアリティ番組化した。予測のつかないトランプ大統領の言動が核戦争の引き金になりかねないリスクをはらんでいるだけに、笑うに笑えない「超リアリティ番組」だ。

北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長も、日本の安倍晋三首相も、ドイツのアンゲラ・メルケル首相も、カナダのジャスティン・トルドー首相も、フランスのエマニュエル・マクロン大統領も、トランプ大統領から「You're Fired(君はクビだ)!」と宣告される実習生のような扱いだ。

「北朝鮮側の明らかな敵意をみると今回の会談を行うのは適当ではない」といったんは首脳会談をドタキャンされた金正恩氏は「朝鮮半島の完全な非核化」を約束し、会談後の記者会見でトランプ大統領に「すごい人物、私の友人で、北朝鮮人民の偉大な指導者だ」と持ち上げられた。

一方、散々な目にあったのがトルドー首相。

G7シャルルボワ・サミットのホストを務めたトルドー首相は「カナダが(対米貿易黒字によって)米国の安全保障の脅威になったというのは、第二次大戦やアフガニスタン戦争でともに戦い、犠牲をだしてきた歴史に対する侮辱だ」と米国の鉄鋼・アルミニウムの輸入制限を批判した。

トランプ大統領はツイッターで強烈なカウンターパンチをお見舞いした。「米国の代表に首脳コミュニケを承認しないよう指示した」「トルドー首相はG7会合では大人しくしていたのに、私がいなくなったとたん『米国の関税は侮辱だ』『振り舞わされない』と言った。実に不誠実で、弱虫だ」

米国が抜ければG7は完全に存在意義を失う。ホスト役のトルドー首相の面目は丸潰れだ。

カナダは米中枢同時テロに端を発するアフガニスタン戦争で158人もの犠牲者(icasualties.orgの統計)を出している。貿易赤字と安全保障を短絡的に結びつけるトランプ大統領のレトリックに、さすがに温厚なトルドー首相も我慢ならなかったようだ。

米朝首脳会談後の記者会見で、トランプ大統領の怒りはメルケル首相にも向けられた。「北大西洋条約機構(NATO)に関して言えば我々は国内総生産(GDP)比の4.2%も国防費を支出しているのに、彼女は1%しか出していない。米国はNATO加盟国全体の国防費の60~90%を負担して、欧州諸国を守ってやっている」

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏「パウエル議長よりも金利を理解」、利下げ

ワールド

一部の関税合意は数週間以内、中国とは協議していない

ワールド

今年のロシア財政赤字見通し悪化、原油価格低迷で想定

ワールド

中国、新型コロナの発生源は米国と改めて主張 米主張
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 2
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・ロマエとは「別の役割」が...専門家が驚きの発見
  • 3
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 4
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    中居正広事件は「ポジティブ」な空気が生んだ...誰も…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story