コラム

イタリア「五つ星運動」31歳首相誕生までのシナリオ 最大の障害は民主党のレンツィ元首相だ

2018年03月07日(水)13時00分

政治家になって5年のディマイオ党首の経験が不足しているのは明らかだが、「五つ星運動」には博士号を持った若くて優秀なタレントがそろっている。腐敗にどっぷりつかってきた職業政治家より、学習意欲も能力も高い「五つ星運動」の若者の方が期待できるとも言えるのではないか。

「五つ星運動」では2期務めると政治家を辞めることになっており、ディマイオ党首も次の総選挙までの任期だ。イタリアではいったん政治家になるとしがみついて辞めない人が多く、「政治家のお尻はイスとくっついている」と言われる。

「五つ星運動」の魅力は、議員報酬の半分を中小・零細企業支援にあてるなど、腐敗とは無縁のクリーンさ、透明性の高さにある。政権に近づけば近づくほど、「五つ星運動」も普通の政党にならざるを得ず、最大のセールスポイントだった清新さを失う恐れもある。

kimura20180304113302.jpg
ラッジ・ローマ市長(3月2日、筆者撮影)

ローマ市初の女性市長に選ばれた「五つ星運動」のビルジニア・ラッジ氏は悪戦苦闘しているが、ローマを治めるのはイタリア全体を統治するより難しい。彼女の真価が問われるのはこれからだ。

「五つ星運動」は2回連続で下院の第1党になった。どの政党とも連立は組まないと宣言した前回と異なり今回は連立のため妥協する方針を表明している。「五つ星運動」は、排外主義の「同盟」に比べ、随分マシな政党だ。

セルジョ・マッタレッラ大統領は「五つ星運動」のディマイオ党首に連立交渉に入る権利を与えるべきだ。3月23日の上下両院の議長選出が一つの節目になり、早ければそれまでに首相が決まっている可能性もある。

私自身はEU統合派なので「五つ星運動」は支持していない。イタリアにEUやユーロから離脱する選択肢はない。市場原理主義のアメリカより、社会福祉も重視するEUのシステムの方がはるかに優れている。

kimura20180304113303.jpg
iaiのポリ研究員(筆者撮影)

EUとイタリアの未来は、ドイツ資本がイタリア国内に投資し、ドイツ企業が賃上げしてドイツの消費者がイタリアの製品を買ってくれることにかかっている。ブレグジット(イギリスのEU離脱)は新聞の偏向報道が引き起こした致命的な間違いで、統合が進んだ欧州の答えではない。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏「パウエル議長よりも金利を理解」、利下げ

ワールド

一部の関税合意は数週間以内、中国とは協議していない

ワールド

今年のロシア財政赤字見通し悪化、原油価格低迷で想定

ワールド

中国、新型コロナの発生源は米国と改めて主張 米主張
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 2
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・ロマエとは「別の役割」が...専門家が驚きの発見
  • 3
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 4
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    中居正広事件は「ポジティブ」な空気が生んだ...誰も…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story