コラム

ドイツ、大連立へ 内部対立はらむ中道左派は終わるのか

2018年01月22日(月)15時45分

メルケル政権に入るか否かが問われた社会民主党(SPD)臨時党大会で演説するシュルツ党首(1月21日) Wolfgang Rattay-REUTERS

[ロンドン発]ドイツの最大野党・社会民主党(SPD)は21日、ボンで党大会を開き、執行部が合意したアンゲラ・メルケル首相のキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)との大連立協議を進めることを決めた。まだ、最終合意を待たなければいけないが、これで復活祭前の3月中にも大連立政権が発足する見通しが強まった。

賛成362票、反対279票。差は予想以上に縮まっていた。マルティン・シュルツSPD党首は演説で「欧州はドイツを待っている。SPDなしにそれは実現しない」と力説した。しかしエマニュエル・マクロン仏大統領から電話で大連立を求められたことを披露すると、会場にはうめき声と称賛が複雑に交錯した。

投票前の討論は4時間以上も続き、大連立反対の急先鋒である青年部代表ケヴィン・キューネルト氏(28)が「我が党は大連立という終わりのない罠にハマっている」と改めて下野を訴えた。SPDは2度の大連立で大幅に支持を減らしている。

青年部の代表者は80~90人で、当初は大連立に向け楽観ムードが流れていたが、フタを開けてみると賛成、反対の差はわずか83票だった。

SPDは昨年9月の総選挙で戦後史上最悪の得票率20.5%まで沈んだ。12年もの長期政権になったメルケル首相への飽きが広がる中、対抗馬のシュルツ党首は明らかにカリスマを欠いていた。テレビ討論でもメルケル首相との違いを鮮明にできなかった。

しかし中道左派の社会民主主義政党の低迷は何もドイツに限った話ではない。大統領選と国民議会選で壊滅的な敗北を喫したフランスの社会党しかり、スペインの社会労働党しかり。イギリスの労働党も先の解散・総選挙までどん底をさまよっていた。

競争力回復の裏で低賃金労働増

脱工業化時代を迎え、製造業に携わっていた従来の労働者階級が崩壊し、中道左派の支持母体だった労働組合の組織率が下がったことが理由の一つだ。1990年の東西ドイツ統一による財政負担で成長力を失ったドイツはSPDのシュレーダー政権下、労働市場・社会保障改革を大胆に進めた。賃金と社会保障費を思い切りカットして、競争力を取り戻した。

kimura180122.jpg

これがドイツ経済を力強く蘇らせたのだが、SPDを支持していた低賃金労働者は経済的にも政治的にも行き場を失った。「ミニジョブ」と呼ばれる月450ユーロ未満で働く労働者は専業で510万人(2014年)。ユーロ危機、難民危機で失業者や低所得者、主権主義者の不満は、反欧州連合(EU)・ユーロ、反移民・難民を叫ぶ極右の新興政党「ドイツのための選択肢」に流れ込んだ。

欧州全体を見渡した時、メルケル首相との大連立を決断したシュルツ党首の選択は間違っているとは言えないだろう。イギリスの離脱で大きな試練を迎えたEUはメルケル首相の強いリーダーシップを求めている。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

原油先物は続落、WTI90ドル 米イランの交渉再開

ワールド

元NATO事務総長、英国防予算不十分とスターマー首

ビジネス

旭化成、カナダの電池材工場の稼働延期 北米EV市場

ビジネス

機械受注2月は13.6%増、2か月ぶりプラス 大型
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:台湾有事の新シナリオ
特集:台湾有事の新シナリオ
2026年4月21日号(4/14発売)

地域紛争の「大前提」を変えた米・イラン戦争が台湾侵攻の展開に及ぼす影響をシミュレーション

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    米軍の海上封鎖に中国が抗議、中国タンカーとの衝突リスク高まる
  • 2
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国防軍は崩壊寸前」
  • 3
    高さ330メートルの絶景と恐怖 「世界一高い屋外エレベーター」とは
  • 4
    日本は「イノベーションのやり方」を忘れた...ホンダ…
  • 5
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 6
    中国がイラン戦争一時停戦の裏で大笑い...一時停戦に…
  • 7
    【銘柄】イラン情勢で「任天堂」が急落 不確実な相…
  • 8
    トランプを批判する「アメリカ出身のローマ教皇」レ…
  • 9
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 10
    「仕事ができる人」になる、ただ1つの条件...「頑張…
  • 1
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 2
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収される...潜水艦の重要ルートで一体何をしていた?
  • 3
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで代用した少女たちから10年、アジア初の普遍的支援へ
  • 4
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国…
  • 5
    撃墜された米国機から財布やID回収か、イラン側が拡…
  • 6
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 7
    中国がイラン戦争一時停戦の裏で大笑い...一時停戦に…
  • 8
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 9
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 10
    健康を守るはずのサプリが癌細胞を助ける? 思いがけ…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収され…
  • 7
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
  • 10
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story