コラム

フレンチ・パラドックスが生み落とす「親EU大統領」マクロン

2017年05月02日(火)18時15分

<反EUの風が吹き荒れるなか、EU統合の深化を訴えてフランス大統領になろうとしているマクロン。その矛盾と分断を、マクロンは超越できるのか>

[パリ、ロンドン発]フランス大統領選の第1回投票で「四つ巴」の激戦を抜け出し、首位で5月7日の決選投票に進んだエマニュエル・マクロン(39)。財閥系ロスチャイルド投資銀行で企業のM&A(合併・買収)を成功させ、社会党の現職大統領フランソワ・オランドの下で経済産業デジタル相を務めた期待の新星は、中道政治運動「前進!」を率い、旧態依然としたフランス政治の伝統と文化を改革する「アウトサイダー」を自認する。

史上最年少の大統領

決選投票に向けた世論調査で、マクロンは、右翼ナショナリスト政党・国民戦線のマリーヌ・ルペン(48)をおおよそ60%対40%で引き離す。第1回投票で台風の目となった急進左派・左翼党共同党首ジャン=リュック・メランション(65)を除く、主要政党、大物政治家はすべてマクロン支持を呼びかけており、「マクロン大統領」が誕生するのは確実な情勢となっている。

【参考記事】仏大統領選、中道マクロンの「右でも左でもない」苦悩

マクロンのどこが「アウトサイダー」なのか。主要政党の社会党や共和党の候補ではなく、とにかく若い。第二共和制の時代、40歳で大統領になったナポレオン三世よりも若く、フランス史上最年少の大統領になる。一時、社会党に属したとは言え、政策を担当する「エリート党官僚(テクノクラート)」で、選挙は今回の大統領選が初めてだ。

【参考記事】極右、トランプという暗黒が生んだフランスの新星マクロンの魅力とは

第二次大戦でナチス・ドイツに占領された苦い歴史を持つフランスには、戦時下レジスタンスを率い、現在の第五共和制を築いたシャルル・ドゴール(1890~1970年)のドゴール主義が脈々と受け継がれている。欧州経済共同体(EEC)や北大西洋条約機構(NATO)と一線を画し、独自の核抑止力を保有するなど、ドゴールは「強い大統領」の指導力の下で「強い国家」「独自の国家」を築こうとした。

欧州連合(EU)やNATOからの離脱を唱えるルペンはある意味、ドゴール主義(フランス至上主義)への回帰とも言えよう。

欧州懐疑主義が急激に広がる中、共和党候補の元首相フランソワ・フィヨン(63)も、社会党候補ブノワ・アモン(49)もEUに関しては「控え目」だった。一方、マクロンは公の場で英語を話すのをためらわず、大統領選でただ1人、EU統合の推進を高らかに唱えた。選挙集会ではフランス国旗とともにEU旗が振られた。自由貿易、グローバリズム、コスモポリタン、そして欧州が前向きに語られた。

【参考記事】フランス大統領選挙―ルペンとマクロンの対決の構図を読み解く

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

国内外の市場の変化、高い緊張感もって注視=城内経済

ビジネス

世界の石油供給過剰予測、ひどく誇張されている=アラ

ワールド

独メルツ首相「欧州は米欧関係を拙速に見限るべきでな

ビジネス

ニデックをBa3に格下げ、見通しネガティブ=ムーデ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:「外国人問題」徹底研究
特集:「外国人問題」徹底研究
2026年1月27日号(1/20発売)

日本の「外国人問題」は事実か錯誤か? 7つの争点を国際比較で大激論

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」の写真がSNSで話題に、見分け方「ABCDEルール」とは?
  • 2
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 3
    韓国が「モンスター」ミサイルを実戦配備 北朝鮮の核開発にらみ軍事戦略を強化
  • 4
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 5
    飛行機よりラク? ソウル〜釜山「110分」へ――韓国が…
  • 6
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の…
  • 7
    【総選挙予測:自民は圧勝せず】立憲・公明連合は投…
  • 8
    「怖すぎる...」モルディブで凶暴な魚の群れに「襲撃…
  • 9
    サーモンとマグロは要注意...輸入魚に潜む「永遠の化…
  • 10
    宇宙人の存在「開示」がもたらす金融黙示録──英中銀…
  • 1
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世界一危険」な理由
  • 2
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の船が明かす、古代の人々の「超技術」
  • 3
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試掘の重要性 日本発の希少資源採取技術は他にも
  • 4
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 5
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 6
    正気を失った?──トランプ、エプスタイン疑惑につい…
  • 7
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 8
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 9
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 10
    世界最大の埋蔵量でも「儲からない」? 米石油大手が…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story