コラム

トランプノミクスで米中貿易戦争が勃発? 交代したグローバル経済の主役

2017年01月19日(木)18時30分

トランプの発言で市場は一喜一憂 Toru Hanai-REUTERS

<怪しげな経済政策でアメリカ経済が合理性も力も失うなか、AIIBと一帯一路ですかさず世界一を目指す中国・習近平>

 スイスのスキーリゾート、ダボスで開幕した世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)で17日、中国の習近平国家主席は英小説家チャールズ・ディケンズの『二都物語』から「それは最良の時代でもあり、最悪の時代でもあった」という有名な冒頭の一文を引いて、演説を始めた。

 習近平はそれ以上の引用は避けたが、『二都物語』ではそのあとに「英知の時代でもあり、愚鈍の時代でもあった」と続く。米大統領選のキャンペーンでメキシコやイスラム系移民への排外主義をまきちらし、グローバル経済に背を向け大声で保護主義を唱えたドナルド・トランプ次期大統領と自身を対比してみせた。

【参考記事】【ダボス会議】中国が自由経済圏の救世主という不条理

 共産主義の看板を公式にはまだ下ろしていない中国の国家主席がグローバル経済の聖地とも言えるダボス会議に出席するのは初めて。膨大な貿易黒字を積み上げる中国は国際社会で孤立するのを恐れて、国家主席と首相が欧州詣でを重ねてきた。

 米中欧の3極(G3)の中で欧州との距離を縮め、できれば米欧の間にクサビを打ち込みたいという中国の深謀遠慮が働く。米国が「世界の警察官」からだけでなく、それに続いてグローバル経済の先頭ランナーからも下りるというのだから、米国と対等の「新型大国関係」を築きたい中国にとっては願ってもないチャンス到来である。

中国が見下すトランプノミクス

「世界を混乱させている問題はグローバリゼーションが原因ではありません。問題はグローバリゼーションがもたらす必然の結果ではないのです」「貿易戦争に勝者はいません。貿易の国際競争力を増すために通貨戦争を始めるつもりもありません」

「中国は門戸を開放し続けます。中国は他の国々にも中国の投資家に対して門戸を開き続け、中国に活動する場所を残すことを望んでいます」。今後5年間で中国の輸入は総額8兆ドルに達し、対外直接投資は対内直接投資の6千億ドルを上回って7500億ドルになると習近平は胸を張った。

kimura201701191601.jpg
出所:IMFデータをもとに筆者作成

 国際通貨基金(IMF)世界経済見通しの最新データをもとに作成したグラフから米国と中国の経済力を比較してみよう。昨年の名目国内総生産(GDP、米ドルベース)でこそ米国は約18兆ドルと中国の約11兆ドルを上回っている。

 しかし為替変動の影響を排除した購買力平価(PPP)で見た場合、米中逆転は2014年にすでに起きている。21年には中国20%、米国14%とその差は拡大する。20年代の半ばには名目GDPでも米中逆転が起きる。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ガザ南部ラファ検問所、15日に通行再開 物資搬入拡

ワールド

ベトナム、年間10%以上の経済成長目標 26─30

ワールド

プーチン氏、シリア暫定大統領と15日に会談へ=ロシ

ワールド

独経済界、対アフリカ政策の転換を提言 資源確保で戦
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道されない、被害の状況と実態
  • 2
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 5
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇…
  • 6
    【クイズ】アメリカで最も「死亡者」が多く、「給与…
  • 7
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 8
    「中国に待ち伏せされた!」レアアース規制にトラン…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 7
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 8
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 9
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 10
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story