コラム

ブッシュとブレアのイラク戦争に遅すぎた審判「外交手段尽きる前に侵攻」世界中に混乱まき散らす 

2016年07月07日(木)16時00分

 チルコット報告書は密室での政治判断がいかに危険かを教えてくれる。コソボ、シエラレオネ、アフガン、イラクとブレアの人道的介入は順調に行くかに見えた。が、アフガン、イラクではイスラム原理主義勢力タリバンや過激派組織ISが勢いを増し、キャメロン現政権が介入したリビア、シリアでも治安情勢は悪化している。

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 英シンクタンク、国際戦略研究所(IISS)の紛争データベースによると、15年、世界中で起きている紛争の数は40件(前年より2件減)、命を落とした犠牲者数は16万7千人(同1万3千人減)。紛争の数は減っているのに犠牲者の数は急激に膨らんでいる。難民の数は14年で1210万人にのぼっており、前年より290万人増えた。

 米英がアフガンやイラクで軍事行動を起こしたことで「西洋はイスラムを弾圧する」と主張するイスラム過激派は勢力を拡大した。「人道的介入」という錦の御旗の下に行われた軍事行動は中東・北アフリカに深い混沌と混乱をもたらしただけだ。

 世界金融危機後の緊縮財政で、欧米は次第に軍事介入に及び腰になっている。ウクライナ危機では衆人環視の中、ロシアのプーチン大統領によるクリミア併合が行われた。ブッシュとブレアが粉々にしてしまった世界の安定という陶器を元通りに戻すのは非常に難しくなっている。

 結果責任を負わなければならない米国や英国の世論は内向きになり、孤立主義の影が広がり始めている。昨年5月、ある世界飢餓会議で20分間スピーチするのにブレアが33万ポンド(約4300万円)を要求して、スピーチが取りやめになったと報じられた。彼はイラクで失われた命をどう受け止めているのだろう。


プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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