コラム

EU離脱派勝利が示す国民投票の怖さとキャメロンの罪

2016年06月24日(金)17時29分

辞意を表明したキャメロン英首相 Phil Noble-REUTERS

 欧州連合(EU)残留・離脱を問う英国の国民投票は衝撃的な「離脱」を選択した。離脱派の英国独立党(UKIP)のナイジェル・ファラージ党首はいったん敗北を認めたが、6月24日未明、「夜が明けたら英国はEUから独立する」と宣言した。

 しかし離脱派のギゼラ・スチュアート労働党下院議員は驚きを隠せなかった。離脱派にとってもこれほどまでに完璧な勝利は予想していなかった。離脱1741万742票(51.9%)、残留1614万1241票(48.1%)。126万9501票の大差がついた。

【参考記事】英国のEU離脱問題、ハッピーエンドは幻か

 移民の増加、規制だらけのEUに強い不満を抱きながら、英国は最後の最後に現実的な判断を下すと筆者は信じて疑わなかった。政治家も、世論調査会社とブックメーカー(賭け屋)のアナリストも、市場も、最後は「残留」と読んでいたはずだ。

 しかし、英国民は経済的な打撃を覚悟の上で、EUを離脱して無制限に増える移民を規制する道を選んだ。

 清教徒革命でオリバー・クロムウェルの議会派が国王派を打ち破り、1649年に国王チャールズ1世を処刑。しかし11年後、チャールズ2世が即位し、英国は共和制から王政に戻った(王政復古)。英国の政治をかじった人なら、口をそろえて「Revolution(革命)」ではなく「Evolution(進化)」こそ英国の遺伝子(DNA)と解説するだろう。

 それが、国民投票が実施されるまでの英国のかたちだった。

 1千年にわたって他国の侵略を許していない英国の強みは、国王の権力を制限する形で発達してきた議会政治による「政治の安定」だった。成熟した間接民主制と二大政党制が英国に秩序と安定をもたらしてきた。

キャメロン辞任は当然

 がしかし、保守党内の不満をガス抜きしたいキャメロン首相のご都合主義で何一つ法的な裏付けのないまま直接民主制の国民投票が行われた。そして、まさかの坂を転げ落ちるようにEUからの離脱を選ぶとは...。まだ、悪夢を見ているようだ。

 不確実性の広がりとともに下落していた英通貨ポンドは24日、さらに急落した。保守党が予想外の単独政権を樹立した直後の昨年6月には1ポンド=195円を超えていたのに、投票日の154円から135円まで暴落した。まさに「暗黒の金曜日」である。余波で日経平均株価も1万5千円を割った。

【参考記事】EU離脱ならイギリスも世界経済も一大事

 単一市場加入と欧州経済共同体(EEC)加盟の是非を問うた1975年の国民投票で欧州統合の道を選んだ41年後、英国は欧州との決別を決断した。これが英国の民意とは言え、馬鹿げていると言う他ない。先の大戦の過ちを繰り返さないよう欧州の団結をいち早く唱えたのは英国のチャーチル首相(当時)である。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ

ニュース速報

ビジネス

銀行システム安定重視、預金者保護に一段の措置も=米

ビジネス

米2月中古住宅販売13カ月ぶりに増加、価格は12年

ワールド

米、今秋にもウクライナに「エイブラムス」戦車の供与

ワールド

NATO国防費目標、22年は30カ国のうち7カ国が

今、あなたにオススメ

MAGAZINE

特集:グローバル企業に学ぶSDGs

2023年3月21日/2023年3月28日号(3/14発売)

ダイキン、P&G、AKQA、ドコノミー......。「持続可能な開発目標」の達成を経営に生かす

メールマガジンのご登録はこちらから。

人気ランキング

  • 1

    大事な部分を「羽根」で隠しただけ...米若手女優、ほぼ丸見えドレスに「悪趣味」の声

  • 2

    女性支援団体Colaboの会計に不正はなし

  • 3

    「この世のものとは...」 シースルードレスだらけの会場で、ひときわ輝いた米歌手シアラ

  • 4

    プーチンの居場所は、愛人と暮らす森の中の「金ピカ…

  • 5

    「ベッドでやれ!」 賑わうビーチで我慢できなくなっ…

  • 6

    事故多発地帯に幽霊? ドラレコがとらえた白い影...…

  • 7

    「セクシー過ぎる?」お騒がせ女優エミリー・ラタコ…

  • 8

    「気の毒」「私も経験ある」 ガガ様、せっかく助けた…

  • 9

    復帰した「世界一のモデル」 ノーブラ、Tバック、シ…

  • 10

    「そんなに透けてていいの?」「裸同然?」、シース…

  • 1

    大事な部分を「羽根」で隠しただけ...米若手女優、ほぼ丸見えドレスに「悪趣味」の声

  • 2

    【悲惨動画3選】素人ロシア兵の死にざま──とうとう長い棒1本で前線へ<他>

  • 3

    「この世のものとは...」 シースルードレスだらけの会場で、ひときわ輝いた米歌手シアラ

  • 4

    プーチンの居場所は、愛人と暮らす森の中の「金ピカ…

  • 5

    事故多発地帯に幽霊? ドラレコがとらえた白い影...…

  • 6

    復帰した「世界一のモデル」 ノーブラ、Tバック、シ…

  • 7

    「ベッドでやれ!」 賑わうビーチで我慢できなくなっ…

  • 8

    女性支援団体Colaboの会計に不正はなし

  • 9

    「セクシー過ぎる?」お騒がせ女優エミリー・ラタコ…

  • 10

    少女は熊に9年間拉致され、人間性を失った...... 「人…

  • 1

    大事な部分を「羽根」で隠しただけ...米若手女優、ほぼ丸見えドレスに「悪趣味」の声

  • 2

    推定「Zカップ」の人工乳房を着けて授業をした高校教師、大揉めの末に休職

  • 3

    バフムト前線の兵士の寿命はたった「4時間」──アメリカ人義勇兵が証言

  • 4

    訪日韓国人急増、「いくら安くても日本に行かない」…

  • 5

    「ベッドでやれ!」 賑わうビーチで我慢できなくなっ…

  • 6

    【写真6枚】屋根裏に「謎の住居」を発見...その中に…

  • 7

    これだけは絶対にやってはいけない 稲盛和夫が断言…

  • 8

    1247万回再生でも利益はたった328円 YouTuberが稼げ…

  • 9

    交尾中の極太ニシキヘビが天井裏から降ってくる悪夢…

  • 10

    ざわつくスタバの駐車場、車の周りに人だかり 出て…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story