コラム

韓国で不動産価格が高騰し続ける理由

2021年03月29日(月)08時57分

また、総合不動産税改正案では、3戸以上または調整対象地域に2戸の住宅を所有する人に対し、課税標準区間別に税率を現行の0.6~3.2%から1.2~6.0%に大きく引き上げた。住宅に対する総合不動産税は課税対象額(課税標準)に税率をかけて算出する。韓国政府は、不動産関連税率を引き上げると、多住宅保有者が税金に対する負担増加を回避するために住宅を市場に手放すことを期待した。しかしながら、韓国政府の期待とは異なり、所有者はいつか政権が変わると不動産政策も変わり、税の負担が軽くなると共に不動産価格も上昇すると考え、市場に不動産を手放す人は少なかった。

さらに、「住宅賃貸借保護法」いわゆる「賃貸借3法」(伝貰・月貰申告制、伝貰・月貰※上限制※、契約更新請求権制)のうち、「伝貰・月貰上限制」と「契約更新請求権制※」が施行されてから、伝貰物件が急激に減り、伝貰価格が跳ね上がる「伝貰大乱」が起きた。韓国不動産院の全国住宅価格動向調査によると、ソウル市のマンションの伝貰受給指数は2020年7月の117.5から2020年12月には133.5に上昇した。ソウル市の伝貰受給指数133.5は統計を発表してから最も高い数値である(2021年2月のソウル市の伝貰受給指数は126.3)。

※契約更新請求権とは2年の契約期間終了後、賃借人が希望する場合1回に限って2年間の契約更新を請求することができる権利である。家主は、住宅に家主やその直系尊属・卑属が実際に住む場合を除いて契約更新請求を拒否することができない。
※月貰:毎月決められた額の家賃を払う制度
※伝貰・月貰上限制:家主と賃借人が再契約をするときに、賃貸料の値上げ幅を、従来の賃貸料の5%以内に制限する制度

上述した内容以外にも低金利が長期間続いたこと(韓国銀行の政策金利は0.5%)、市中に供給された通貨量が増加したこと、民間を中心とした再建築や再開発が継続的に規制されていたこと、不動産貸出を規制したこと等が不動産価格を上昇させた原因として考えられる。

文在寅大統領は1月18日に開かれた新年記者会見で「今まで不動産投機を防ぐための対策を主に実施したものの、不動産の安定化は成功できなかった」と不動産政策の失敗を事実上認めた。そして、2月4日には公共部門を中心に住宅建設を大幅に加速し、2025年までにソウルに32万戸、ソウル以外の地域に51万戸の住宅を建設すると発表した(2・4対策)。

文政権が次々と不動産対策を発表しても、今後不動産価格が安定し、マンションの供給が増えると予想する人は多くないだろう。その理由は文政権に代わって以来、住宅建設の認可件数が大きく減少したからである。今から認可件数を増やしても供給量は増えず、実際に供給量が増えるのは早くてもこれから3~4年後である。また、本文でも言及したようにソウルを含めた首都圏中心の経済が改善されない限り、ソウルやその付近の不動産価格の上昇を防ぐことは難しい。さらに、今後も一人世帯が増加すると予想されており、住宅に対する需要はしばらくの間は減らないと予想される。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員、亜細亜大学特任准教授を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国の情報活動、日本の総選挙標的 高市氏の対中姿勢

ワールド

ロシア、キューバ情勢の激化懸念 人道問題の解決訴え

ワールド

ハンガリーの独立系ラジオ免許不更新、EU最高裁が違

ビジネス

独テレコム、第4四半期は中核利益が予想上回る 見通
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
2026年3月 3日号(2/25発売)

フィンテックの進化と普及で、金融はもっと高速に、もっとカジュアルに

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの謎判定に「怒りの鉄拳」、木俣椋真の1980には「ぼやき」も
  • 2
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 3
    戦術は進化しても戦局が動かない地獄──ロシア・ウクライナ戦争5年目の現実
  • 4
    住宅の4~5割が空き家になる地域も......今後30年で…
  • 5
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 6
    最高裁はなぜ「今回は」止めた?...トランプ関税を違…
  • 7
    3頭のクマがスキー客を猛追...ゲレンデで撮影された…
  • 8
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 9
    【クイズ】サメによる襲撃事件が最も多い国はどこ?
  • 10
    中国で今まで発見されたことがないような恐竜の化石…
  • 1
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より日本の「100%就職率」を選ぶ若者たち
  • 2
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 3
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く高齢期の「4つの覚悟」
  • 4
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体に…
  • 5
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの…
  • 6
    「#ジェームズ・ボンドを忘れろ」――MI6初の女性長官…
  • 7
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面…
  • 8
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 9
    海外(特に日本)移住したい中国人が増えている理由.…
  • 10
    100万人が死傷、街には戦場帰りの元囚人兵...出口な…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 5
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 6
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story