コラム

韓国の高齢者貧困率が日本を超える理由

2020年10月30日(金)15時20分

ソウルの公園に集まり中国将棋を楽しむ高齢者たち Kim Hong-Ji-REUTERS

<韓国の高齢化率は今でこそ日本を大きく下回るが、少子高齢化のスピードが速く、2045年には日本を上回る。これまでも自分の子供や親戚からの仕送りに頼ってきた高齢者のために、公的年金の拡充が急務だ>

韓国では少子・高齢化の急速な進展に伴い、社会保障に対する韓国政府の支出が継続的に増加している。韓国の高齢化率は2019年現在15.5%で同時点の日本の28.4%を大きく下回るものの、少子高齢化のスピードが速く、2045年になると日本の高齢化率を上回ることが予想されている。このまま少子高齢化が続くと、2065年の高齢化率は48.8%で、日本の38.4%を大きく上回ることになる。

日韓における高齢化率の推移
kimchart201030.jpg

注1)1960年~2019年:実際値、2020年~2065年:推計値
注2) 日本:出生中位、死亡中位、韓国:出生率2016年現在の水準、期待寿命中位、国際純移動中位
出所)日本:国立社会保障・人口問題研究所(2017)「日本の将来推計人口(平成29 年推計)」、韓国:統計庁ホームページ「将来人口推計」(資料更新日:2019年3月28日)より筆者作成


準備不足で迎えた少子高齢化

日本より社会保障制度の歴史が浅い韓国は、少子高齢化に対する対策や将来の財政運営を準備する期間が十分ではない状態で急速な少子高齢化の波に直面している。2017年における韓国の65歳以上高齢者の相対的貧困率(所得が中央値の半分を下回っている人の割合)は43.8%と、2017年のデータが利用できるOECD加盟国の中で最も高い。高齢者の貧困状態を認識した韓国政府は2014年に65 歳以上で所得下位 70%の高齢者を対象とした基礎年金制度を導入し、その後給付額を最大10万ウォンから30万ウォンに引き上げるなど所得改善のための政策を行っているものの、いまだに高齢者貧困率は改善されていない。

OECD加盟国の年齢階層別相対的貧困率
kimchartoecd.jpg

注1)相対的貧困率:OECDでは、等価可処分所得(世帯の可処分所得を世帯人数の平方根で割って算出)が全人口の中央値の半分未満の世帯員を相対的貧困者として定義している。
注2) 日本のデータは2015年
出所)OECD Data, Poverty rate.


韓国の高齢者貧困率が他の国と比べて高い理由としては、制度をスタートする際に対象から外れた人や年金の受給資格期間を満たしていない人がまだ多く、公的年金(国民年金、公務員年金、軍人年金、私学年金)が給付面においてまだ成熟していないことが挙げられる。2019年現在、公的年金の老齢年金の受給率は約53.2%で、まだ多くの高齢者が公的年金の恩恵を受けていないことが分かる。

※老齢年金の受給率:65歳以上人口の中で少しでも老齢年金を受給している人の割合、保険料ではなく一般会計を財源とする基礎年金のみの受給者、障害年金や遺族年金の受給者を除外して計算

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員、亜細亜大学特任准教授を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ジャクソン米最高裁判事、トランプ大統領の裁判官攻撃

ワールド

IMF、中東・北アフリカの2025年成長率予測を大

ワールド

トランプ政権の「敵性外国人法」適用は違法 連邦地裁

ビジネス

伊藤忠商事、今期2.2%増益見込む 市場予想と同水
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 7
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 8
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 9
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 10
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story