コラム

映画『82年生まれ、キム・ジヨン』と振り返る韓国の女性活躍推進政策

2020年10月29日(木)12時31分

韓国女性の生きづらさを演じて日本でも共感を呼んだジヨン役のチョン・ユミ  © 2020 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved.

<働く女性に対して差別的な企業風土や伝統を描いたこの映画には、否定的な反応を見せた韓国人男性も多かった。まだ課題は山積だ>

1982年に韓国で生まれた女性が生きていく過程で経験する差別や苦悩を描いた韓国映画『82年生まれ、キム・ジヨン』が10月9日に日本で公開された。この映画は累計販売部数130万部を超えた原作(2016年出版)を映画化したもので、2019年10月に韓国で上映され、累計367万人の観客動員数を記録した。

原作や映画では、女性が育児と仕事を両立することがなかなか難しい韓国企業の風土や、儒教に根差す男性優位主義が残存している韓国の家族制度の問題点等を女性主人公の生活を通して語っている。20代を中心とする若い男性の中には原作や映画に否定的な反応を見せた人も少なくなかったそうだ。もしかすると彼らは、韓国政府が2000年代半ばから推進してきた女性活躍推進政策等により、過去と比べて労働市場に参入することや企業で昇進・昇格することが難しくなったことを恨んでいるのかも知れない。

大企業に女性比率向上を義務化

韓国政府は女性の雇用拡大及び差別改善を目指して、2005年12月に男女雇用平等法を改正し、2006 年3月 1日から「積極的雇用改善措置制度」を施行した。積極的雇用改善措置制度とは、積極的措置(Affirmative Action)を雇用部門に適用したもので、政府、地方自治体及び事業主などが、現存する雇用上の差別を解消し、雇用平等を促進するために行うすべての措置やそれに伴う手続きを言う。

当制度は、2006 年 3月の導入当時には常時雇用労働者 1,000人以上の事業所に義務づけられていたが、2008 年 3 月からは適用対象が 同 500 人以上の事業所や政府関連機関まで拡大され、現在に至っている。適用対象の拡大により、積極的雇用改善措置の事業所数は 2006 年の 546 事業所から 2020 年には 2486 事業所まで増加した。

当制度の主な内容は(1)対象企業の男女労働者や管理者の現状を分析すること、(2) 企業規模及び産業別における女性や女性管理職の平均雇用比率を算定すること、(3) 女性従業員や女性管理職比率が各部門別において平均値の 70%(2014年までは60%)に達していない企業を把握、改善するように勧告することであり、対象企業は毎年 3 月末に雇用改善の目標値や実績、そして雇用の変動状況などを雇用労働部に報告することが義務づけられている。

では、積極的雇用改善措置の施行以降,女性の雇用状況はどのように改善されただろうか。まず、対象企業の女性従業員比率は 2006 年の 30.8%から2020 年には 37.7%に6.9ポイント高くなった。また,同期間における対象企業の女性管理職比率も10.2%から 20.9%に2培以上も上昇した。

韓国における積極的雇用改善措置の対象企業の女性従業員比率と女性管理職比率
kimchart201029.jpg
出所)雇用労働部(2020)「2020AA男女労働者現況分析報告書」より筆者作成

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員、亜細亜大学特任准教授を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請件数、1万件減の21.4万件 継

ワールド

EU・仏・独が米を非難、元欧州委員らへのビザ発給禁

ビジネス

中国人民銀、為替の安定と緩和的金融政策の維持を強調

ワールド

ウクライナ和平の米提案をプーチン氏に説明、近く立場
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 5
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 6
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 7
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 8
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 9
    【投資信託】オルカンだけでいいの? 2025年の人気ラ…
  • 10
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 7
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 8
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story