コラム

日本が韓国の新型コロナウイルス対策から学べること──(2)マスク対策

2020年04月10日(金)15時13分

一方、「医薬品安全使用サービス(DUR:Drug Utilization Review)システム、以下DURシステム」とは、医薬品の重複処方による副作用を防止するために、医薬品の処方、調剤など医薬品の使用に関する情報をリアルタイムで提供するシステムで、24時間365日体制で運営される。医者は患者の処方情報を健康保険審査評価のDURシステムに入力・転送し、医薬品の濫用や重複調剤有無を確認する。患者の情報を入力してから結果が出るまで、かかる時間はわずか0.5秒で、ほぼリアルタイムで患者の情報が確認できる。

韓国政府は最初、このDURシステムをマスクの重複購買防止に活用しようとしたものの、マスクが医薬品ではないことと、マスクの購入履歴管理によりシステムにトラブルが発生した場合、医薬品の事前点検システムが停止してしまう恐れがあることを考慮し、DURシステムを応用して作った療養期間業務ポータルの「マスク重複購買確認システム」を利用することを決めた。このシステムを稼働させたことにより公的マスクを販売する全国の薬局、郵便局、ハナロマート(農協のスーパーマーケット)でマスクの重複購買に対するチェックが可能になった。

■医薬品安全使用サービス(DUR)のイメージ
dur.png
出所)健康保険審査評価院を利用して筆者作成

買い占めには罰金

実施初期には批判の声も少なくなかった「マスク5部制」は、今は韓国社会に定着した様子である。週に2枚のマスクが安定的に供給されることに加えて、ネットショッピングなどで追加的にマスクが買えるようになったからである。韓国政府は公的マスクの供給状況を毎日公開しており、民間が開発したマスクアリミ(知らせ)というアプリケーションやホームページ(https://mask-nearby.com/)を使えば、周辺にある薬局などのマスクの在庫が確認できる。また、韓国政府はマスクや消毒剤の転売を申告するサイトを設けて、マスクの高値販売を監視している。実際、筆者がネット上で確認したところ、原材料価格の上昇の影響で少し価格が高くなったものはあったものの、「マスク大乱」が起きる前と比べて価格が大きく上昇したものはなかった。個人や業者が暴利を狙ってマスクを買い占めた場合、2年以上の懲役や5000万ウォン以下の罰金を同時に科することができるように処罰基準を強化した措置も「マスク5部制」の実施と共にマスク価格の急上昇を防げた要因であると考えられる。本文で紹介した韓国のマスク対策が日本のマスク不足の解消に少しでも参考になること願うところである。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所客員研究員、日本女子大学人間社会学部・大学院人間社会研究科非常勤講師を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米耐久財コア受注、3月は0.2%増 第1四半期の設

ワールド

ロシア経済、悲観シナリオでは失速・ルーブル急落も=

ビジネス

ボーイング、7四半期ぶり減収 737事故の影響重し

ワールド

バイデン氏、ウクライナ支援法案に署名 数時間以内に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 2

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 3

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」の理由...関係者も見落とした「冷徹な市場のルール」

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 6

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 7

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    コロナ禍と東京五輪を挟んだ6年ぶりの訪問で、「新し…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story