コラム

韓国、新型肺炎の集団感染を起こした新興宗教「新天地イエス教会」の正体

2020年02月25日(火)13時29分

韓国の感染者を急増させた新天地イエス教の大邱教会前(2月19日)  Yonhap/REUTERS

<韓国で新型コロナウイルスの集団感染を起こした新興宗教は、信者の身元を明かさない秘密主義のため感染対策を困難にしている>

新興宗教団体「新天地イエス教」を中心に感染が拡大

韓国で新型コロナウイルスの感染者が急増している。2月18日まで31人であった感染者数は、2月24日には833人まで急増し、国内の死者は計8人になった。なぜ、感染者数はわずか6日でここまで急増したのだろうか。

■新型コロナウイルスの感染者数の推移
coronachart.jpg
注)毎日16時基準
出所)韓国疾病管理本部

韓国で感染者が急増したのは31人目の感染者(61歳、女性)が韓国の南東部の大邱広域市にある新興宗教団体「新天地イエス教」(以下、「新天地」)の「新天地イエス教大邱教会」を訪ねてからである。彼女が「新天地イエス教大邱教会」の礼拝に参加した後、同じ教会で10人の感染者が確認されるなど1日だけで患者数は31人から46人に急増した。さらに、20日には一日で大邱・慶尚北道地域で51人の感染者が発生し、半分を超える28人が新天地大邱教会から出るなど、同教会で礼拝した信者らや「新天地」の全国の支部を中心に感染者が続出している。

「新天地」の全国の支部で感染者が発生している理由としては、1)彼らが全国にある支部の教会を巡りながら礼拝を行っている慣例があること、2)密閉された空間で多くの人が互いに体が接する近さで座って礼拝をささげていること、3)1月末に亡くなった新天地イエス教教祖の李萬煕(イ・マンヒ)の兄の葬儀が大邱から近い清道のデナム病院で行われたことが挙げられる。特に、1月末に行われた葬儀には、新天地の中国支部から来た人も参列したと言われており、31人目の患者を含めた多数の人がここで感染されたのではないかと推測されている。

韓国の疾病管理本部の発表によると、2月23日9時時点の感染者556人のうち、新天地イエス教の感染者数は309人で半分以上を占めている。大邱市は「新天地イエス教大邱教会」の約9,000人の信者全員を対象に検査を実施することを発表すると共に、信者全員に対し、外出禁止や家族の隔離などを要請した。また韓国政府は2月23日、政府の危機警報レベルを「警戒」から最も高い「深刻」に引き上げた。

新興宗教団体「新天地」の実態は?

では、新興宗教団体「新天地」はどういう集団なのだろうか?「新天地」は現在の教祖である李萬煕により1984年に設立された新興宗教団体である。設立当時わずか10人に過ぎなかった信者数は、その後、新約聖書の「ヨハネの黙示録」の解釈を中心とした集会への参加者が増加して勢力を伸ばしているが、信者の家出、離婚、学業放棄が多発しており、韓国社会で最も大きな社会問題の1つとなっている。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所客員研究員、日本女子大学人間社会学部・大学院人間社会研究科非常勤講師を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米財務長官、FRB議長候補2氏を高評価 「オープン

ビジネス

FF金利先物、1月米利下げ確率31%に上昇 失業率

ビジネス

米雇用、11月予想上回る+6.4万人・失業率4.6

ビジネス

ホンダがAstemoを子会社化、1523億円で日立
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 8
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「日本中が人手不足」のウソ...産業界が人口減少を乗…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story