コラム

日本を苦しめる「デジタル赤字」...問題解決のために、さらなる「赤字の拡大」が必要となるワケ

2024年05月23日(木)17時49分
日本のデジタル赤字

RONNIECHUA/ISTOCK

<貿易赤字が定着しつつある日本で、特に問題視されているのが海外IT企業に支払うクラウドサービス利用料などのデジタル関連の赤字だ>

このところ多少、落ち着きを見せているものの、日本の貿易収支は赤字傾向が定着しつつある。2022年の貿易収支は20兆3295兆円、23年は9兆3218億円の赤字だった。貿易収支が悪化している主な要因は、工業製品の輸出が相対的に減少していることや、原油価格、食糧価格の高騰や円安によって輸入金額が増大していることである。

だが、赤字傾向が顕著となっているのはそれだけが理由ではない。エネルギーや食糧など、以前から輸入せざるを得なかった品目のみならず、自国で生産できていたはずの製品やサービスも輸入に頼るようになったからである。

かつての日本では、携帯電話のほとんどが日本メーカー製だったが、スマートフォン(スマホ)の台頭にもかかわらず、ガラケー(従来型携帯)に固執したことでほぼ壊滅状態となってしまった。スマホはもちろんのことパソコンや家電など、日常生活に必要な工業製品のほとんどが海外製である。

これに加えて近年、特に問題視されているのが海外IT企業に支払うソフトウエアの購入代金やクラウドサービスの利用料金など、いわゆるデジタル関連の赤字である。

クラウドサービスで太刀打ちできない日本企業

このところ、情報システムを自社で保有するのではなく、遠隔地にあるIT企業のデータセンターで運用を行うクラウドサービス市場が急拡大している。この分野で日本のIT企業は海外の企業にまったく太刀打ちできない状況となっており、多くのユーザー企業が毎年、高額の料金を払って外国企業にデータを預けている。

日本政府が情報システムをクラウド化しようと入札を実施したところ、要件を満たす企業が日本国内には存在せず、海外企業に政府のデータを預けざるを得なかったという笑えない話もあった。企業の基幹システムを構成するソフトウエアもほとんどがアメリカあるいはドイツ企業の製品であり、やはり海外に富が流出している。

為替市場では急速に円安が進んでおり、日本政府や産業界は危機感を募らせているが、円安が進む理由の根底には日本全体の競争力低下という問題がある。表面的には日米の金利差が最大の円安要因ではあるものの、日本だけが金利を上げられないのは、国内経済の基礎体力が弱く、急激な金利上昇に耐えられないからである。

過度な円安を防ぐには、日本の競争力強化が不可欠であり、そのためにはより積極的にIT投資を進めていく必要がある。日本企業のIT投資水準は30年間ほぼ横ばいが続いており、3倍以上に拡大させている諸外国との差は拡大する一方である。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米がウクライナ和平仲介断念も 国務長官指摘 数日で

ワールド

米側の要請あれば、加藤財務相が為替協議するだろう=

ワールド

次回関税協議で具体的前進得られるよう調整加速を指示

ワールド

イスラエル、ガザで40カ所空爆 ハマスが暫定停戦案
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判もなく中米の監禁センターに送られ、間違いとわかっても帰還は望めない
  • 3
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 4
    米経済への悪影響も大きい「トランプ関税」...なぜ、…
  • 5
    紅茶をこよなく愛するイギリス人の僕がティーバッグ…
  • 6
    トランプ関税 90日後の世界──不透明な中でも見えてき…
  • 7
    ノーベル賞作家のハン・ガン氏が3回読んだ美学者の…
  • 8
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 9
    今のアメリカは「文革期の中国」と同じ...中国人すら…
  • 10
    トランプが「核保有国」北朝鮮に超音速爆撃機B1Bを展…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止するための戦い...膨れ上がった「腐敗」の実態
  • 3
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 6
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 7
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 8
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story