コラム

日本の輸出企業に「コストの倍増」を迫る、中国の「独自基準」

2022年07月20日(水)11時20分
米中技術対立

MOLLYW/SHUTTERSTOCK

<中国が独自の「技術標準」を策定する動き。アメリカ主導で国際的に標準化されていた構図が崩れることは、日本の輸出産業に大きな損失をもたらす>

中国政府が工業技術に関する「国家標準」策定を検討するなど、ハイテク分野における外国排除の動きを強めている。米中両国は貿易戦争状態となっており、今後、米中市場の分断が進むことが懸念されている。ここに技術分野での分断が加わった場合、世界経済のブロック化が急加速する可能性もある。

これまで多くの工業分野において、技術標準を策定してきたのはアメリカだった。ITや航空機はその典型で、技術に関するほぼ全ての基本仕様はアメリカが策定しており、それが世界標準として通用していた。

日本はもちろんのこと、政治的にはアメリカと対立する中国やロシアといった国々であっても、その流れに逆らうことはできず、各国のメーカーはアメリカが決めた仕様に沿って製品の開発や製造を行ってきた。

アメリカ発の技術標準が存在していることは、工業製品の貿易で経済を成り立たせてきた日本のような国にとって非常に好都合だった。アメリカに輸出する製品でも、中国に輸出する製品でも、基本的な技術仕様が同じであれば、開発や製造のインフラを共通化できるので、圧倒的に効率が良い。

実際、中国に輸出した部品を使って中国メーカーが組み立てを行い、最終製品をアメリカに輸出するといったケースは無数にあり、こうしたオペレーションが可能であるのも、技術仕様が世界で統一されているからである。

1990年代以降、経済のグローバル化が進んできたが、この動きは商習慣の標準化であると同時に、技術仕様の標準化でもあり、特に技術仕様の標準化はイノベーションの進展に極めて大きな役割を果たしてきた。

中国の技術向上で従来の構造に変化が

ところが中国の経済力がアメリカと拮抗し、政治的にも米中対立が鮮明になってきたことで、この流れが変化する可能性が高まっている。中国政府は自国の技術に自信を深めており、自国と友好国内で通用する独自技術仕様の策定を進めている。

実際、多くの工業分野において中国の技術はアメリカに匹敵する水準となっており、独自仕様の策定は可能な段階に入っている。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国と推定される無人機、15日に与那国と台湾間を通

ワールド

中国、ネット企業の独占規制強化へ ガイドライン案を

ワールド

台湾総統、中国は「大国にふさわしい行動を」 日本と

ビジネス

持続的・安定的な2%達成、緩和的状態が長く続くのも
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 5
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 6
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 7
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 8
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 9
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 10
    反ワクチンのカリスマを追放し、豊田真由子を抜擢...…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story