コラム

第6波に備えよ、最大の景気対策は「経済再開」より「医療崩壊の防止」だ

2021年10月13日(水)11時47分
病院のベッド

BAONA/ISTOCK

<消費者の行動は緊急事態宣言など政策に関係なく決まる。経済を重視すればこそ、最優先すべきは経済の再開ではない>

政府は2021年10月1日、「緊急事態宣言」と「まん延防止等重点措置」を全面解除した。飲食店などに対する時短営業要請は1カ月の経過措置が取られるものの、全国で宣言と重点措置がない状況は半年ぶりのことになる。

落ち込んだ消費の回復が期待される一方、医療専門家は、ほぼ確実に第6波が到来すると主張している。政府は感染が再拡大した場合でも、ワクチン接種証明などを活用することで経済への打撃を最小限に抑えたい意向だ。

仮にブレークスルー感染(ワクチン接種後に感染すること)があったとしても、現時点ではワクチン接種が最良の解決策であることに変わりはなく、ワクチン接種証明の活用は経済とコロナを両立させる有力な手段の1つと考えてよい。だが一連の取り組みには注意すべき点もある。

接種証明によるコロナとの共存策が見えてきたことから、国民に慎重な行動を求める意見について批判する声が上がっているが、経済を大事に思うのであれば、安易な楽観論はむしろリスクが大きい。その理由は、消費者心理というのは単純ではなく、潜在的リスクがある場合、自発的に行動を抑制するものであり、経済にも大きな影響を与えるからだ。

政府は9月24日に公表した年次経済報告(経済財政白書)において、国民の外出自粛が何の要因で行われたのかについて分析している。それによると国民の外出自粛の主な要因となったのは、緊急事態宣言そのものや営業時間短縮といった介入効果ではなく、大半が感染者数の増減といったファクトであった。極論すれば緊急事態宣言が出ていようがいまいが、感染者数が増えれば行動を自粛し、減少すれば緩めていたことになる。

医療崩壊すれば国民は自粛する

この分析結果は多くの人にとって納得できるものではないだろうか。コロナのことがよく分かっていなかった1回目の緊急事態宣言を除けば、大半の人は、宣言の有無よりも感染者数を気にして行動していたはずである。

逆に考えれば、感染者数が増加したり、それに伴って医療崩壊が発生した場合、仮に政府が緊急事態宣言を発令しなくても、国民の多くが行動を自粛する可能性が高い。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

焦点:税収増も給付財源得られず、頼みは「土台増」 

ワールド

米、対外援助組織の事業を正式停止

ビジネス

印自動車大手3社、6月販売台数は軒並み減少 都市部

ワールド

米DOGE、SEC政策に介入の動き 規則緩和へ圧力
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    世紀の派手婚も、ベゾスにとっては普通の家庭がスニ…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    あり?なし? 夫の目の前で共演者と...スカーレット…
  • 9
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story