コラム

「日本の医療崩壊」その危険性を示唆する、世界で断トツの「数値」

2021年01月20日(水)11時54分

TAA22/ISTOCK

<コロナ感染者の激増に医療現場はもう耐えきれない? その背景にあった日本独自の構造問題とは>

昨年末以降、新型コロナウイルスの新規感染者数が激増していることから、医療崩壊が現実的な視野に入り始めた。このペースで感染者が増えれば、「日本の感染者数は欧米と比べて少ない」というこれまでの常識も成立しなくなる。

現時点での患者数は欧米よりも少ない状況だが、それにもかかわらず、なぜ医療崩壊が懸念されるのだろうか。筆者は医療の専門家ではないので、医療現場のオペーレションではなく、医療従事者数など経済的・社会的観点から日本の医療崩壊について考察する。

コロナ危機が顕在化した昨年以降、日本のICU(集中治療室)の数が欧米各国と比べて少ないことは何度も指摘されてきた。だが、全てのコロナ患者がICUでの治療を必要とするわけではないので、ICU不足は医療崩壊を起こす原因の1つではあるが決定的な要因とは言い難い。

OECD(経済協力開発機構)の調査によると、日本における人口1000人当たりの医師数は約2.5人と調査対象30カ国中26位と低い。ただし、日本に近い国民皆保険制度を持つイギリスも2.8人とほぼ同じであり、アメリカも2.6人なので、特に状況が悪いとは言えないだろう。

看護師数については、日本は人口1000人当たり11.8人で、31カ国中8位と上位だ。このデータだけを見ると日本が医療崩壊するとは到底思えないが、病床数を見るとまるで状況が違ってくる。

断トツの病床数が意味するもの

日本における人口1000人当たりの病床数は約13.0と、加盟国では断トツである。OECD各国の平均値は4.5なので、日本には3倍近い病床が存在していることになる。

病院もビジネスなのでこれらの病床を空けたまま放置することはあり得ない。医師数や看護師数が平均水準であれば、病床数が多い分だけ1人の医師や看護師が担当する患者数は増える。単純計算では諸外国の約3倍になるので、普段から医療従事者に過度な負担がかかっていることが推察される。

筆者は外国の病院に入院したことはないが、海外在住者の話では、患者1人に対する医療従事者の数は体感的に3~4倍ということなので、おそらくこの統計は現実を反映しているだろう。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米ホリデー商戦、オンライン売上高2.1%増に減速へ

ワールド

トランスネフチ、ウクライナのドローン攻撃で石油減産

ワールド

ロシア産エネルギーの段階的撤廃の加速提案へ=フォン

ワールド

カーク氏射殺事件の容疑者を起訴、検察当局 死刑求刑
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 2
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 3
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがまさかの「お仕置き」!
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 8
    「なにこれ...」数カ月ぶりに帰宅した女性、本棚に出…
  • 9
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 10
    出来栄えの軍配は? 確執噂のベッカム父子、SNSでの…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story