コラム

もはや「輸出大国」ではない日本が、経済再建のためにすべきことは?

2020年02月13日(木)12時46分

高度経済成長期の産業構造のイメージから脱却すべき ISSEI KATOーREUTERS

<「貿易赤字は悪」という誤った認識を持ったままでは、日本経済を立て直す正しい道に踏み出すことはできない>

日本の貿易収支が2年連続で赤字になった。日本では輸出が国を成り立たせると考える人が多く、貿易赤字は悪という認識が一般的である。だが、日本経済は既に輸出主導型から消費主導型にシフトしており、貿易収支にこだわる必要はなくなっている。

財務省が発表した2019年の貿易統計によると、輸出額は76兆9278億円で前年比5.6%のマイナス、輸入額は78兆5716億円でこちらも前年比5.0%のマイナスとなった。輸出から輸入を差し引いた貿易収支は1兆6438億円の赤字で、2年連続で貿易赤字が発生している。

輸出が減った直接的な原因は、米中貿易戦争によって中国向けの出荷が減ったことなので、米中の部分合意が成立したことで、今後は多少の改善が見込める可能性が見えてきた。国内では輸出を強化すべきという声は依然として大きく、安倍政権の経済対策の中にも輸出企業の支援策が盛り込まれている。だが歴史的な流れを見ると、日本はもはや輸出で国を成り立たせる構造ではなくなっている。

日本は戦後、ほぼ一貫して貿易黒字を計上し、特に1980年代半ば以降は、毎年10兆~15兆円もの黒字を出していたが、その後は徐々に減少し、2005年には貿易黒字と所得収支(国外への投資から得られる投資収益)が逆転。日本は輸出ではなく投資で稼ぐ国になった。11年以降は貿易赤字になる年も目立っており、名実共に日本は輸出立国から消費立国・投資立国にシフトしたといってよい。

輸出立国の段階は終了

経済学的に見た場合、貿易収支が黒字か赤字かは経済成長にとってあまり重要ではない。国民の豊かさは基本的にGDPの規模と成長率で決まるが、貿易収支の成長率に対する寄与度はそれほど大きくないというのがその理由だ。

貿易黒字は、国内以外にも需要が存在しており、国内企業が国外消費分も生産していることを意味するが、これは国内需要が少ないことの裏返しでもある。一方、貿易赤字ということは国内の生産では足りず、国外からモノをたくさん買った結果なので、国内需要が過大であることを示している。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米、ワシントンの犯罪取り締まりで逮捕者らの給付金不

ワールド

フィンランド、米国との二国間の軍事協力は深化=国防

ビジネス

航空連合ワンワールド、インドの提携先を模索=CEO

ワールド

トランプ米政権、電力施設整備の取り組み加速 AI向
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 8
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 9
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 10
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story