コラム

財務省人事から考える、年金減額と消費増税のシナリオ

2019年07月30日(火)14時40分

岡本薫明氏の次官就任と続投が意味していること

岡本氏は入省後、一貫して予算を扱う主計局を歩み、秘書課長、主計局次長、主計局長という重要ポストをすべて歴任している。財務省的には文句なしのエリートといってよいだろう。同省の場合、次官候補者はかなり前から絞られていることが多く、今回の人事が定常モードへの回帰だと考えれば、「次」の人物もすでに想定されている可能性が高い。その人物とは、今回、官房長に就任した茶谷栄治氏(86年)である。

茶谷氏は、岡本氏と同様、秘書課長や主計局次長など、次官になるための主要ポストを歴任している。政治的な動きは見せず、典型的な財務官僚タイプと評されており、同省的にはまさに王道といってよい。

茶谷氏が次官の最有力候補と仮定すると、来年の人事において官房長から主計局長に転じ、2021年に次官に就任する可能性が高い。岡本氏が3期続投するとは考えにくいので、そうなると、来年の人事では、現在、主計局長の太田充氏(83年)が、1年だけ次官を務めるというシナリオが有力だ。

岡本氏と太田氏は同期であり、太田氏は文書課長や秘書課長を経験していない。もし太田氏が次官に就任した場合、これも異例人事のひとつと見なせるかもしれないが、その後、茶谷氏が次官に昇進すれば、勝氏以来、続いてきた変則的な人事はすべて終了となる。

本来の姿に戻った財務省は、これでようやくポスト消費税の施策に専念できるわけだが、同省の次の狙いが社会保障制度改革、つまり簡単に言ってしまえば、年金の減額であることは明白だ。加えて言うと、安定財源を確保するため、10%以上への消費増税についてもすでに検討に入った可能性が高いだろう。

今回の参院選では、年金2000万円問題という想定外の事態が発生したものの、安倍政権は争点をボカすことで何とか乗り切った。選挙後に記者会見に臨んだ麻生財務大臣は、消費増税について「消費税率の引き上げは最初から申し上げてきた。その意味では信任をいただいたと思う」と、増税しないという選択肢はなかったとも受け取れる発言を行っている。

また、今回の参院選で228万票を獲得した「れいわ新選組」が消費税廃止を訴えたことについては、「福祉は負担と給付のバランスの上に成り立っているが、給付が増えて負担を減らすことが成り立つと思っているのだろうか」と否定的な見解を示している。

年金減額の強化と支給開始年齢の引き上げが焦点に

実は選挙前にも、社会保障の財源である消費増税の見通しについて微妙なやり取りがあった。7月3日に開催された党首討論会では、安倍首相が「(10%への増税を実現できれば)今後10年は消費増税は必要ないと思う」と述べたが、翌日には公明党の山口那津男代表が「責任ある発言とは受け取れない」とこれを否定したのである。政府内部の実務レベルでは、10%以上への増税がすでに既定路線となっていることを伺わせる出来事といってよいだろう。

では、今後、実施される社会保障改革とは、どのようなものになるのだろうか。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中朝首脳が会談、戦略的な意思疎通を強化

ビジネス

デジタルユーロ、大規模な混乱に備え必要=チポローネ

ビジネス

スウェーデン、食品の付加価値税を半減へ 景気刺激へ

ワールド

アングル:中ロとの連帯示すインド、冷え込むトランプ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...地球への衝突確率は? 監視と対策は十分か?
  • 3
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 4
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害…
  • 5
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 6
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 7
    【クイズ】世界で2番目に「農産物の輸出額」が多い「…
  • 8
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 9
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 4
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 5
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 8
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 9
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story