コラム

パラダイムシフトの前兆か? 自動車メーカーの業績が総崩れに

2019年05月21日(火)15時45分

プラス成長のトヨタであっても主力の北米市場で苦戦しているのは同じ Brendan Mcdermid-REUTERS

<主戦場を中国に移す対応は急務だが、EVシフトを進めるにあたって日本企業の課題は山積である。2019年3月期決算が示唆するのは、自動車業界再編の前兆か>

自動車メーカーの業績が悪化している。これまで各社は、米国の好景気を背景に順調に販売台数を伸ばしてきたが、北米市場はそろそろ飽和状態となっており、米中貿易摩擦の影響も深刻化している。だが経営陣にとってもっとも憂鬱な問題は、直近の業績ではなく自動車業界に迫りつつある100年に1度のパラダイムシフトだろう。今回の業績悪化は、やがて到来する嵐の予兆かもしれない。

経営体制をめぐるゴタゴタの間に業績が悪化

日産自動車の2019年3月期の決算は売上高が前年比3.2%減の11兆5742億円、営業利益は44.6%減の3182億円となり、営業利益が親会社であるルノーを下回った。2020年3月期はさらに業績が落ち込み、連結予想純利益は47%減の1700億円を見込んでいるが、これは2010年3月期以来の低水準である。

前会長のカルロス・ゴーン氏の逮捕をきっかけに、同社では会長ポストやルノーとの統合をめぐってゴタゴタが続いている。経営陣が内輪もめしている間に同社の業績はみるみる下がってしまった。

もっとも今回の業績悪化の直接的な原因は経営陣の内紛ではなく、ドル箱であった北米での販売台数が大きく落ち込んだことである。同社に限らず世界の自動車メーカーは、絶好調だった北米市場におんぶにだっこという状況だったが、いくら米国が好景気といっても無制限に消費者が新車を買えるわけではない。各社は販売奨励金を積み増すことで台数を維持してきたが、もはや数年先までの需要を先取りしてしまったともいわれる。

2017年あたりから販売奨励金を積み増しても販売台数が伸びないことが多くなり、日産の場合、特に奨励金による影響が大きかった。2019年3月期の北米販売台数は189万7000台と前期比で9.3%も落ち込んでいる。この状況がすぐに改善するとは思えないので、引き続き低調な販売が続く可能性が高い。同社の今期の業績予想が悪いのもこうした理由からだ。

今回の経営問題が業績悪化の直接的な原因ではないにせよ、重大局面において内紛に終始していた現経営陣の責任は極めて重いといわざるを得ないだろう。

ホンダの四輪事業は赤字転落

ホンダの業績も冴えない。売上高こそ前年比3.4%のプラスだったが、営業利益は12.9%減の7263億円にとどまった。日産と比較するとホンダの落ち込みは小さいとの印象かもしれないが内実は異なる。今回の業績は好調な二輪が牽引したものであり、主力事業である四輪の業績は大きく落ち込んでいるのだ。

2019年3月期の四輪の営業利益は2096億円と二輪を下回った。四半期ベースで赤字になる期もあり、足元はかなり厳しい。同社はもともと欧州が弱く、英国のブレグジット問題をきっかけに欧州での生産から撤退しているが、業績悪化の最大の要因はやはり北米市場の伸び悩みといってよいだろう。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国人民銀、最優遇貸出金利据え置く見通し 6カ月連

ビジネス

アングル:米政府閉鎖解除で統計発表再開、12月利下

ビジネス

マスク氏とフアン氏、米サウジ投資フォーラムでAI討

ビジネス

米の株式併合件数、25年に過去最高を更新
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 10
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story