コラム

トランプが復活させたアメリカの「ルーズベルト流」帝国主義

2025年08月30日(土)14時45分

米外交は、第1次、第2次大戦で欧州に深く関与したことから、民族自決、自由、民主主義などの理念・価値観を強く打ち出すようになった。それ以前は没価値(=社会的価値観とは無縁)の帝国主義だった。1897年に就任したマッキンリー米大統領は、98年には米西戦争に勝利してフィリピン、キューバ、グアムなどを支配下に置き、ハワイの王朝を力で廃位させて準州とした。

経済的打算を秘めノーベル賞まで

1901年、同大統領が暗殺されて副大統領から昇格したセオドア・ルーズベルトは、「日本の肩を持って日露戦争を日本の勝利で終わらせてくれた人」とされているが、彼も無私の人ではない。1905年に米東岸のポーツマスで日露講和会議が始まって数日後、彼の友人で鉄道王のエドワード・ヘンリー・ハリマンが日本に向かった。当時の桂太郎首相と、日本がロシアから獲得した南満州鉄道の利権の半分を買収し、満州を日本と共同開発する方向で話をまとめるためである。


結局のところ日本はハリマンとの合意を覆し、南満州の利権を独占することで、後の太平洋戦争への伏線を敷くことになるが、この時のルーズベルトは経済的打算を秘めながら停戦を仲介しノーベル平和賞までせしめたという点で、トランプに酷似している。トランプは異形の大統領といわれるが、100年間ほど続いた理想主義外交の時代から没価値のエゴイズムの時代に戻っただけなのだ。

トランプはこれを台湾に適用するかもしれない。中国と結んで台湾問題を「平和的に処理」し、それでノーベル平和賞をもらう、というやり方である。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

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