コラム

「リベラルかつ強権」私がこの目で見た、中央アジア最強国ウズベキスタンのミルジヨエフ大統領

2023年12月25日(月)19時35分
ウズベキスタンのシャフカト・ミルジヨエフ大統領

LIESA JOHANNSSENーREUTERS

<底堅い経済を保ちながらも自立外交を展開する凄腕指導者。その正体は? 本誌「ISSUES 2024」特集より>

■世界のキーパーソン2024

中央アジアの隠れた中核国家(人口、軍事力とも最大規模)であるウズベキスタンのシャフカト・ミルジヨエフ大統領は、ウズベク社会の矛盾──例えば民主的に振る舞う上司は部下に軽んじられるので強権を装わざるを得ない──を一身に体現している。

1957年生まれの66歳。ソ連時代、名門のタシケント灌漑(かんがい)・農業機械化大学(灌漑・地利事業はウズベク経済の根幹)を卒業した。大学では共産党の青年組織コムソモールの幹部として活躍し、以降ほぼ一貫して議会・行政組織で働いた。

南部の要衝サマルカンドの州知事を2年間務めた後、当時のイスラム・カリモフ大統領に見込まれて2003年に首相となり、2016年のカリモフ急死を受けて大統領になった。

筆者は本人に何度か会ったことがある。周辺スタッフを極力減らすなど合理的でリベラルな半面、利権・腐敗に問答無用の強権を振るうのをためらわない。とはいえ、公安機関SNBを国内掌握のために使っていたカリモフと違って、子飼いの部下も少なく、その点は心もとない。

それでも同国は農業・鉱工業をベースに、中央アジアで最も底堅い経済を持つ。地域随一の軍事力を背景に、ロシア、中国、アメリカのはざまで外交的な自立性も維持している。

2024年は「中央アジア+日本」の首脳会議が計画されている。今、この地域では米中ロ韓などがプレゼンスを競う。日本はいたずらに競うことなく、中央アジア諸国がロシアの勢力圏に取り込まれたり、中国の債務の罠にはまったりしないよう、合理的な支援でフォローするべきだろう。

20231226issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2023年12月26日/2024年1月2日/1月9日号(12月19日発売)は「ISSUES 2024」特集。中東&ウクライナ戦争/生成AI/世界経済/中国独裁/米大統領選[PLUS]キーパーソン10人...2024年の世界を読む

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら

カメラが捉えたプーチン「屈辱の50秒」...トルコ大統領、2年前の「仕返し」か
【写真】目を見張る豪華さと洒落た内装...プーチンと愛人の5000万ドル「超豪華ヨット」がトルコで発見される
中央アジアでうごめく「ロシア後」の地政学

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

豪首相、AUKUSの意義強調へ トランプ米大統領と

ワールド

イラン、イスラエル北部にミサイル攻撃 「新たな手法

ビジネス

中国粗鋼生産、5月は前年比-6.9% 政府が減産推

ワールド

中国の太陽光企業トップ、過剰生産能力解消呼びかけ 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 7
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story