三菱商、洋上風力発電計画から撤退 資材高騰などで建設費倍増

8月27日、三菱商事は、秋田県と千葉県沖の計3海域で計画していた洋上風力発電事業について、開発を取りやめると発表した。写真は、東京の本社ビル入口に掲げられた同社のロゴ。2016年4月、東京で撮影(2025年 ロイター/Issei Kato)
Kentaro Okasaka
[東京 27日 ロイター] - 三菱商事は27日、秋田県と千葉県沖の計3海域で計画していた洋上風力発電事業について、開発を取りやめると発表した。中西勝也社長は記者会見し、資材価格高騰などで建設費用が入札時の想定の2倍以上に膨らみ「売電収入より保守・運転費用を含めた総支出の方が大きく、実現可能な事業計画を立てることは困難との結論に至った」と述べた。開発中止に伴う損失は大部分を過年度に計上済みで、追加損失が生じる場合も限定的とした。
中西社長は、新型コロナウイルス禍やウクライナ紛争を経て供給網の逼迫(ひっぱく)、インフレ、金利上昇、円安など「洋上風力業界を取り巻く事業環境が世界的に大きく変化した結果、想定をはるかに超えてコストが膨らんだ」と説明。風車メーカーの変更や工法の見直し、工程の短縮など「あらゆる手段を精査した」とした上で「マイナスのリターンで事業継続をするかというのは、民間企業がそれを取れるものではないという判断をした」と語った。
また、「断腸の思いで、期待に沿えぬ結果となったことを心より申し訳なく思う」と陳謝。「引き続き社長として責務を全うし、この(エネルギーの低炭素化の)分野でもリードし、三菱商事をけん引していきたい」と話した。
グループ会社が三菱商事と共にコンソーシアム(企業連合)を構成していた中部電力は、開発取り止めで2026年3月期に現時点で170億円程度の損失発生を見込んでいると発表した。
中西社長から撤退の報告を受けた武藤容治経済産業相は、「洋上風力の導入に遅れをもたらすもので大変遺憾だ。地元の期待を裏切り、洋上風力に対する社会の信頼そのものを揺るがしかねない」と述べた。今後、3海域での事業を実現するため、地元の理解を改めて得た上で再公募を進める意向を示した上で、「できる限り丁寧かつ真摯(しんし)な対応を強くお願いする」と三菱商事に求めた。
三菱商事連合は、再エネ海域利用法に基づく公募を通じて21年、経産省と国土交通省から3海域での発電事業者に初選定された。28-30年にかけて運転開始し、発電設備出力は着床式の計134基で1.7ギガワット(GW)となる計画だった。
政府は2月発表の第7次エネルギー基本計画で30年までに10GW、40年までに浮体式を含め30-45GWの確保を目指すとしており、三菱商事連合の撤退は打撃となる。洋上風力ではその後、三井物産、住友商事、伊藤忠商事、丸紅などがそれぞれ中心となる企業連合も事業者に選定されている。
エネルギー基本計画は風力発電について、陸上に比べて大規模開発が可能で、特に洋上風力は今後コスト低減が見込まれ「再生可能エネルギーの主力電源化に向けた『切り札』」と位置付けている。陸上より風速が速く、騒音や景観の問題も起きにくい長所があるとされる。
三菱商事は2月、インフレや円安、供給網の逼迫(ひっぱく)、金利上昇など洋上風力業界を取り巻く環境が世界的に大きく変化しているとし、事業性を再評価していると発表。522億円の減損損失を計上した。中部電も同月、洋上風力発電事業に関連し179億円の損失を計上した。