コラム

「人間のライターはもう不要」? チャットGPTにロシアの記事を書かせてみた

2023年05月30日(火)14時35分

チャットGPTは、情報やデータの出どころを書いてないことが多いから、信憑性のチェックに手間取る。

また、「2010年9月20日付の、ロシアの政治情勢についての主な新聞記事を集めて」と指令すると、それはできない、やらないという答えが日本語でも英語でも返ってきた。新聞は読んでいないのだろうか。

AIとはさみは使いよう

そして、いよいよズバリ、「20年時点でのロシアの政治情勢の見通しにつき、雑誌で使えるような論文を1500字以内で書いて」と指示したところ、ちゃんとポイントも押さえた記事をすらすら書き始める。

ところが字数に達して尻切れとんぼで停止した。字数を守れたのがやっと3回目。まあ、これは人間も同じか。

ということで、チャットGPTとはさみは使いよう。メディアにそのまま使えるときもある。だがプロのライターは、プラスアルファを持っている。読者を引き込む、論理と感情の勢い。五七五や四六四と読んですらすら頭に入るリズム感、等々。

そして「ウクライナの軍司令官が姿を隠している」という報道があったら、人間ならば「おかしい。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領と対立したためかもしれない」と感じて、自分で取材を始めることができる。AIにはこれ(つまり仮説と検証)はできまい。

さらに、自分の書いたことが読者にどう作用して、どのような反応を喚起するかの計算。これは世論・社会の状況をよく心得ていないとできない芸当だ。自分の記事が外国人にも読まれると思ったら、外国人の反応まで計算に入れないといけない。

アートの要素を入れると、ライティングはさらに複雑な作業になる。チェーホフのように、いくつか言葉少ない叙述で全体の雰囲気を漂わせたり、音楽の対位法の手法で複数のテーマを絡み合わせたり、転調のつもりでムードをがらりと変えたり。

以上の全てをAIにプログラミングすることはできる。それだけの器量を持ったプログラマーがいれば。しかしそんな高価なAIを買うより、人間のライターを「適正な」原稿料で使うほうをお勧めしたい。

おっと、大事なことを忘れていた。ライターが絶滅したら、AIが「食べる」情報を作る者がいなくなる。ライターは必要なのだ。ただし、AIのための労働者として。

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プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

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