コラム

日本は「脱亜入欧」から「脱欧入亜」に転換するべきか

2022年12月10日(土)15時20分

台北市長に当選した国民党のホープで蒋介石のひ孫の蒋万安 LAM YIK FEIーBLOOMBERG/GETTY IMAGES

<今の日本が、戦前に進出したアジアの「列強」に復讐されないよう、西側列強を引き込もうとしているのは皮肉な話>

台湾で11月26日、統一地方選挙があり、与党・民進党は22県市で5カ所しか首長の座を確保できないという、敗北を喫した。

地方選は対外路線の是非を争うものではないが、それでも社会の底流は示す。それは、民進党が掲げる旗印「台湾の独立性維持、自由・民主の護持」だけでなく、大陸との関係強化で景気を良くすることも台湾社会は重視していること、そしてウクライナ戦争で米軍が参戦しないのを見た台湾の青年たちが、アメリカとの準同盟路線に疑問を抱いていることである。

もともと台湾では2018年に徴兵制が廃止されてから、軍が兵士の確保で難儀している。もし24年の総統選で中国寄りの国民党が勝利すれば、台湾は再び中国に引き寄せられるだろう。

台湾が自分の意思で中国に接近すれば、「台湾有事に米軍出動。自衛隊はどうする」という議論をする意味がなくなる。日米豪韓、ニュージーランド、そしてNATOは肩透かしを食らう。

折しも10月、米軍は沖縄に常駐するF15戦闘機部隊を今後2年以内に撤収すると表明。アラスカから最新鋭のF22部隊が時々来るが、常駐はもうしないかもしれない。米軍はグアム辺りに残るとしても、「アジアの、アジアによる、中国のためのアジア」の時代がやってきてしまうのだろうか。

福沢諭吉は137年前、「我国は隣国の開明を待て共に亜細亜を興すの猶予ある可らず、寧ろ其伍を脱して西洋の文明国と進退を共にし」と書いた。彼はこの時、アジアの保守勢力との決別を宣言しただけで、韓国や中国の近代化を助ける動きは続けたのだが、明治政府は西側列強から身を守るため西欧文明に自ら同化、富国強兵を進め、周辺のアジアに武力で進出していった。

アジアに訪れる「仁義なき戦い」

そして今日、日本を脅かす「列強」は、かつて日本が進出した当の相手である。日本は彼らに復讐されないよう、西側列強を何とか引き込もうとしている。皮肉なものだ。だから、「福沢の『脱亜入欧』がいけなかった。これからは『脱欧入亜』の意気込みでやっていこう」という声が、数年前から聞こえてくる。だがそれもまた能天気な話で、強くなってしまったアジアに仲間にしてくれと擦り寄っても、「食べられて」しまうだけの話だ。

「アジアでは欧米の攻撃的な価値観とは違う、老幼・上下の区別をわきまえた平和な秩序が成り立っている」わけではない。どこも上部は権力の維持と強化を、大衆は一銭でも多く稼ぐことを目標として動いている。共産主義や儒教はただの統治の手段で、心から信じ込んでいる者はほとんどいない。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

7日に米国内農家支援措置発表へ、中国による大豆購入

ビジネス

米国株式市場=主要3指数最高値、ハイテク株が高い 

ワールド

トランプ氏、職員解雇やプロジェクト削減を警告 政府

ビジネス

9月の米雇用、民間データで停滞示唆 FRBは利下げ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
2025年10月 7日号(9/30発売)

投手復帰のシーズンもプレーオフに進出。二刀流の復活劇をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 3
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 4
    「人類の起源」の定説が覆る大発見...100万年前の頭…
  • 5
    イスラエルのおぞましい野望「ガザ再編」は「1本の論…
  • 6
    「元は恐竜だったのにね...」行動が「完全に人間化」…
  • 7
    1日1000人が「ミリオネア」に...でも豪邸もヨットも…
  • 8
    女性兵士、花魁、ふんどし男......中国映画「731」が…
  • 9
    AI就職氷河期が米Z世代を直撃している
  • 10
    【クイズ】1位はアメリカ...世界で2番目に「航空機・…
  • 1
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 4
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけでは…
  • 5
    こんな場面は子連れ客に気をつかうべき! 母親が「怒…
  • 6
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 8
    高校アメフトの試合中に「あまりに悪質なプレー」...…
  • 9
    虫刺されに見える? 足首の「謎の灰色の傷」の中から…
  • 10
    琥珀に閉じ込められた「昆虫の化石」を大量発見...1…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story